3.15 勇者故に
ラヒンを掴んだ男を悪意ある眼差しで、リガンは一瞥すると、先だって外へと出た。
外は太陽からの直射日光降り注ぐ、眩しい状況である。
そんな状況下の中、リガンは来たときとは違い、考え事をするほどの余裕が無くなった分、逆に周りの光景を見るゆとりが生まれた。
そしてリガンはトラルン集落の現状を目にしたのだ。
働く住民達の目はみな生気を失っており、焦点が定まらぬ者までいる。
服はぼろぼろであり、動きの節々から相当の疲労がたまっていることは疑う余地なき状態であった。
しかしそれに比べ集落内の建物は立派であり、とてもじゃないが半年前に出来たとは信じられない程である。しかしその環境水準が住民の私生活に反映されているとはリガンには思えなかった。
「立ち止まるな!お前達の目的地はここじゃないんだぞ」
外へ出て直ぐに立ち止まったリガンに対し男の叱咤が襲いかかる。
男の鋭い目にリガンの反抗心が湧かなかった訳ではない、しかし男の手にあるラヒンの姿を視界に入れると、リガンのいっぱしの反抗心も直ぐに弱々しくなるのであった。
今ラヒンがこのような人間事の問題に直面しているのはひとえに自分のせいなのである。自分があの時ラヒンを連れていかなければ、あの時ラヒンの言葉を聞いていれば。そう後悔せずにはいられない。
今のリガンにはラヒンの姿を見るだけで悶え死にしそうな気分になるのだ。自分のおかした行動の結果がラヒンの今の姿なのだから。
男の後へついていきトラルン内部を歩いて行くことで、よりリガンはトラルン集落の現状を知る事が出来た。しかしそうして知り得たトラルンの現状はリガンの怒りを誘う物であった。
住民達は自らの意思で働いていたのではなかった。やっていたのではない、やらされていたのである。
リガンは幾つもの作業現場を見ることで、どの現場にもある共通点が存在していることに気づいたのだ。
その共通点とはどの現場にも必ず一人以上、何の作業もしていない人がいる点である。
リガンは最初こそサボり魔だと思っていた。しかし観察を続け不審な点に思いいたったのだ。あそこまで正々堂々サボっている人物がいるのに誰も注意しないのだ。それどころか皆まるでその人物に対し恐れているかの如く接していた。
そしてサボっていた人物はそうした皆が働く作業風景を見ているようであった。
本来サボり魔は働きたくないからサボるのであり、働いている光景など見たくないはずなのである。
こうしてリガンの中でたまっていった違和感はある点を目にしたことで確定的となった。
ある作業場において作業をしている年寄りが疲労に耐えかねてか地面に倒れ伏せた。息苦しそうにし、立ち上がらない老人に対し他の皆が心配そうに見守るなか、サボっていたはずの人物が近づき倒れている者に蹴りを入れたのだ。
「倒れてんじゃねぇ、早く立ち上がれって言うんだ!」
自らがサボりの立場でありながら、先程まで作業していた者に対し暴言をはきながら、立ち上がるまで蹴りをいれ続けていた。
その出来事が確定的となりリガンはようやくこのトラルンの一端を垣間見る事が出来たのだ。
その人物はサボっていたのではない、監視をしていたのだ。住民達を強制的に働かせる為に。
住民達が生気を失った目をしていたのも、疲労がたまりきっていたのも、そしてわずか半年でここまでの発展をすることが可能であったのも全て強制的に働かされていたからなのだ。
それを知った時リガンの中にわき出たのは怒りであった。助けたいという欲求ではなく、激しい怒り。
トレンさんが望んでいたのはこんな世界ではない。トレンさん達が必死に旅をして、そして皆の為に魔王を倒した。その結果がこれなのか。いや違うこれは間違っている。トレンさんはこのような人々を苦しませる現状を望んでなんかいない。倒さなければ、このような現状を作り出した張本人を。
リガンは見ず知らずの黒幕に対し激しい怒りを抱いた。勇者を尊敬するが故の怒りを。




