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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第3章 支配と解放と……
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3.13 影響されて

 リガンの返しが墓穴を掘る結果となった。歩きすぎた、そんな当たり障りのない返しをしたつもりであったが相手は見事にそれを利用し、リガンを更なる奥地へと巻き込もうとしてきた。

 この時リガンが取ることが可能な選択肢は二つのみである。相手の誘いを受けるか、受けないかその二択のみ。

 そしてリガンは前者を選択した。


「実を言うと私もこの子も朝から何も食べてなくて腹が減っていたんです。彼の面倒から食事の用意まで何から何までありがとうございます」


 うわべの言葉でリガンはカタンの誘いを受けた。その答えにラヒンは元から丸い目をますます丸くし、リガンの足にしがみつく。

 ラヒンの事だけを考えれば誘いを断り、自分と二人だけで逃げ出すことも可能であっただろう。

 しかし彼が居るのだ。寝たきりで今だ目を覚まさないトルクが。


 人として好きかと問われればリガンは、トルクの事を好きではないと答えるだろう。

 そんな感情を抱きながらもトルクを見捨てなかったのは、彼が居なければ都市キリヤルへは行けない、そんな魂胆が彼女には少し位はあったかもしれない。

 しかしそれ以上にリガンが尊敬する勇者、トレンは仲間を見捨てるなんて行動は絶対にしない人であり、そんなトレンを尊敬している彼女だからこそトルクを見捨てるなんて絶対に出来ない選択肢だったのだ。

 それ故にトルクが起き、逃げる隙が出来るまでリガンは時間稼ぎ、もとい相手の要求を受けるしかないのだ。たとえ要求が胡散臭い物であったとしても。


「そうですか、それなら私の後についてきて下さい。近くの部屋にお食事を用意させていますから」


 そう言うとカタンはリガンらに後について行くよう促す。

 既に昼食を用意している辺り、元からリガンらを誘う想定であったのだ。

 胡散臭さは倍増したが、リガンとしては相手の要求に素直に従うしかない。寝たきりのトルクをここに一人で置いていくのはリガンとしては忍びないのだが、ここは仕方ないというものである。

 リガンはラヒンを胸に抱えた。ここは先程いた草原ではなく、また近くの部屋に移動するだけなのでそうする必要はないのだが、リガンにはラヒンに伝えたいことがあった。

 震え怯えているラヒンに人の温もりを与え、自分がここにいる、大丈夫だと暗黙の内に伝える為に。

 そうして二人はカタンに次いで、トルクの寝ている部屋から廊下へと出ていった。



 カタンに案内された部屋は先程より少し大きめの部屋であり、中央に10人程が一緒に食事を取れるようなテーブルと腰を掛ける台がテーブルの両側に設置してある。

 そしてそのテーブルには水差しと木のコップが二つ用意されていた。

 

「おや、まだお食事の準備ができていないようですね。期待させておきながら申し訳ありません。直ぐに用意させます」


 そうカタンは言葉を残し、リガンらを置いて部屋を出て行く

 そして部屋にはリガンとラヒンの二名だけが残っていた。

 この部屋から一歩も出るな、暗に相手がそう言っている事ぐらいリガンには理解に出来た。

 料理を待つ間リガンはテーブル近くにある台に腰をかけた、傍らにはラヒンを置いて。


「ごめんラヒン。貴方の言うことに耳を貸すべきだったよね」


 声量だけでなく熱も下がったリガンの声が、ラヒンの耳元に届く。

 そんなリガンにラヒンは頭を降った。


「いいんだもん。お姉ちゃんは腹ペコな僕を助けてくれたんだもん。そんなに落ち込まなくてもいいもん」


 ラヒンが自身を励まそうとわざと明るく振る舞っていること位、リガンは気づいていた。だからこそ思ったのだ、ラヒンだけは何としてもここから逃がさなくてはならないと。


「ありがとう私を励まそうとしてくれて。けど大丈夫、危険な目には会わせないわ。それが貴方をここに連れてきてしまった私の責……」


 責任という言葉を言おうしたときリガンの顔つきが険しくなる。その時に思い浮かべたのはトルクであった。

 トルクは責任という言葉を信条にしている。そしてリガン自身はその責任という単語を重視してはいない。いやそれどころかリガンの人助けに何かと責任という言葉を使って避難するトルクによって、リガンは責任という言葉自体を嫌っていた。


 このような時本来のリガンであれば責任という言葉を使うはずがないのだ。

 トルクに影響されすぎたか、そんな思いを浮かび上がらせてしまい、リガンは嫌な気分になる。


 どうしてあんな奴に影響されなければならないんだ。

 そんな思いを打ち消すべくリガンは水差し内の水をコップに注ぎ込む。

 リガンとしてはトルクを否定したかったのだ、勇者を憎み、人助けを嫌う彼の考えを。


 そんなトルクの考えを私が受け入れている?そんな事があるはずがない!


 そしてその思いを流し込むの如くリガンは水を飲み干した。

 しかしそんなリガンに訪れたのは精神の安定ではなかった。代わりとして訪れたのは強烈な睡魔であり、リガンの視界は徐々に狭まっていく。

 小さくなっていく視界の中で、心配そうな顔でこちらを見つめているラヒンを最後に捉えたリガンは、そのまま眠りに落ちた。

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