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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第3章 支配と解放と……
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3.8 急変

「トルクっ!」


 リガンは叫ぶとトルクの元へ急いで駆けつける。そしてたどり着くとうつ伏せで倒れているトルクを仰向けにさせた。

 露になったトルクの顔は蒼白であり、具合が悪いのは言うまでもない。

 この時、トルクは気を失っており、事態の重さをリガンは感じずにはいられなかった。

 しかしトルクに対してリガンがしてやれることは限られていた。何故ならリガンには医術に関する知識がないのである。


 旅に出る前必要となる知識、怪我を負った時の治療法等は身につけてきたが、病に関する事となると旅には必ずしも必要な知識とは言えない。その為リガンは覚えなかったのである。

 しかしこのような場面で必要となるとは、リガンは後悔せずにはいられない。

 しかし今はとにかくトルクの容態を治す事が必要である。

 自分で治す事が出来ぬなら、他者に頼るしかない。

 リガンはポケットにしまってあるここいらの、バサバサ草原地帯の地図を取り出す。

 ここから近い獣丸族の村は何処だ、その思いで食い入るように地図を見つめるリガンに近くに来たラヒンが遠慮しがちに声をかける。

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃんを治すのに良いところがあるもん」

「トルクを治せる場所が近くにあるの!」


 ラヒンの言葉におい被さるようにリガンの声が重なる。しかしながらそのリガンの迫力にラヒンは少し怯えてしまった。

 リガンは思わず熱くなってしまったことを誤りラヒンに先を促す。


「この近くに人間の集落があるんだもん」

「人間の集落?この地図には乗っていないけれど」


 リガンはラヒンに地図を差し出す。獣丸であるラヒンは小さな手で差し出された地図を掴む。

 リガンにとっては小さく感じられる物でもラヒンにとっては大きな物である。


「少し分かりにくいけど、この地図は古いよお姉ちゃん。だって人間がこの近くに来たのはつい半年前位だもん」


 ラヒンから返された地図をリガンは受け取る。

 正直な所リガンは半年前に人間が集落を作ったという話に疑問を感じざるを得なかった。

 魔剛蔓延るこの時代に住んでいた場所を離れ、新しく集落を造るなど、危険極まりない行為であるからだ。

 それこそ建築中に資材や食糧を魔剛に取られるのは目に見えている。そんな危険を追ってでも故郷を離れる理由などあるのだろうか。

 ともかくまずその人間の集落に行き助けを呼ばなければならない。トルクの体は女であるリガンが運ぶにはあまりにも重すぎるからだ。

 リガンはラヒンに道案内を頼み、人間の集落へと向かった。


 リガンはラヒンを胸に抱えたまま草原を走り続ける。草原の雑草は相も変わらず長く、走りづらいことこの上ないが、文句を垂れても状況が変わるわけでもない。

 リガンは黙々とラヒンの指示する方向へと走り続けた。


 30分後ラヒンを連れたリガンは話に出た人間の集落へとたどり着いた。

 リガンらがたどり着いた人間の集落は少しばかり奇妙である。

 まず集落の囲いとなるものだが、集落の規模と比べ過剰と思える用心深さである。囲いに柵ではなく木の幹を使用しており、それを地面に突き立て囲いとしている。その高さは3mはあろうか。

 そしてそんな囲いがない門から見えた住民達の顔は軒並み暗く、黙々と作業をしていた。

 普段のリガンなら怪しみこんな所へは足を運ばないだろう。しかしこの時のリガンには余裕がなかった。

 トルクを一刻も早く助けなければ、その思いで一杯であったのだ。


 リガンらは門にいた番兵に声をかけた、同行者が倒れてしまったので助けて欲しいと。

 細目と太目の体形をしていた二人の番兵達は顔を見合わせた後、太目の方が集落の中へ入り奥へと消える。

 しばらくたった後、奥から荷車を引く体格の良い男二人と、そんな二人を引き連れた、人の良い笑みをし、灰褐色の髪を短く刈り上げた紳士的な立ち姿の男性、以上の三人が姿を表した。


「お嬢さん、仲間が倒れてさぞ不安だったのでしょう。けどもう大丈夫です。今すぐこの人たちが助けてくれますから」


 人の良さそうな男性が先だって話す。そして男性に紹介された二人の男がリガンらの前に並んだ。


「あなたに協力いたします。どうぞご案内してください」


 リガンは幸運に恵まれたと思わずにはいられなかった。このような一大事の時に、近くに人間の集落があり、しかもこんなにも優しいなんてこれが幸運だと言わずしてなんと言うか。

 人助けを信条とするリガンにとって、助けられる側になることは感慨深いことでもある。

 リガンの胸に熱いものが込み上げる。リガンは彼らにお礼を言うと荷車を引く男達を案内をするため先頭に立ってまた走り出した。


 この時リガンは気づかなかった、集落にいる住民達が向ける憐みの視線を。そしてその向けられた視線を、ラヒンが気づいていたということを。

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