3.5 殺す理由
リガンの目の先に、トルクと魔剛が剣を交えている。
襲ってきた魔剛は岩陰に隠れリガンらを待ち受けていたのだ。
そしてそれに気付くことなくリガンは近づき魔剛の奇襲を受ける羽目となった。
この時トルクも風邪ぎみだった影響からか魔剛の気配に気付くことが出来ず、気付いた時には魔剛が襲いかかる直前である。
そしてトルクはリガンとした約束事ゆえか、リガンを庇い剣筋を魔剛と交えた。
この時の魔剛は人間から奪ったであろう剣を手にしていた。しかしそんな魔剛もリガンらと同じく一人ではなかった。
リガンはトルクの先にもう一人、魔剛を見つけた。草むらに隠れていたのだ。
向こう側にいた魔剛は同じく人間から奪ったであろう弓矢を手にしている。
それに加え、悪いことに向こうの魔剛はトルクに照準を定めていた。
「トルク!向こうに魔剛がいる」
リガンは転んだままの状態でそう叫ぶ。
それを聞くやいなやトルクはつばぜり状態にある魔剛の剣を剃らせ膠着状態を回避する。
先程までトルクとつばぜりをしていた魔剛の体がいきよいにより前のめりになる。
そこにトルクの剣が首もとを狙い打った。
ドサッと重いものが落ちる音が響く。
魔剛の体には最早頭はなく、すこしばかり痙攣した後、頭に続き体が倒れる音を鳴らす。
トルクによって斬られた断面は氷で凍らされていた。
そんな光景にリガンは目を見開かせる。
驚いたのは勿論であるがそれ以上にやりすぎだと思ったからだ。
普通魔剛は人を殺すような真似はしない。何故なら殺してしまえば今後強奪することが出来る機会が減ってしまうからだ。
殺さず、生かし強奪できる人数を減らさない。そんな努力紛いの事を彼らはしてきた。
そのため強奪する際傷つけるとしても、致命傷までは行かず脅す目的の傷をつけるだけである。
その為リガンへの攻撃もそれこそ治療することが可能な範囲の傷をつけるだけであっただろう。
これ程リガンが魔剛に肩入れしているのはひとえに魔剛の事を哀れんでいるからなのだが、それ故にトルクの行為は見逃す事はできなかった。
何も殺す事はない、追い返すそれだけいいのではないかと。
リガンを襲った魔剛を殺したトルクは、向こう側で弓を構えていた魔剛に顔を向ける。
「ま、待ってトルク」
出されたか細い声もトルクには届かない。
仲間が殺られたのを見て逃げようとする魔剛にトルクは走り追い付く、そして純白に輝く剣を胴体に差し込んだ。
二人目の死体が野原に転がっている。その光景はのどかなこの場所にはふさわしくないものであった。
戦闘を終えたトルクは戦利品を獲得するためか魔剛の死体を物色している。
しかしこの時のリガンは複雑な気分であった。
確かに助けて貰った事には感謝している。だが魔剛を殺す必要までなかったと。
トルクを責めてやりたかった、何故殺したのかと。
だが助けてもらった自分にそれを言う資格が無いことくらいリガンには分かっている。
それ故に言い表すことの出来ぬ気分になっていた。
しかしひとまずは礼を言わなければならない。
リガンは立ち上がりトルクの元へ歩き出す。しかしその歩みは途中で止まった。
リガンが見たのはトルクの顔、そして瞳である。
トルクの瞳は憎悪の炎を灯していた。それこそ近づき難いほどの激しい炎を瞳に灯して。




