3.2 取り決め
何故リガンはキリヤルに行きたいのか、それはキリヤルが勇者が最後に消息をたった地であるからだ。
魔王を倒した謎の存在を人々は勇者と呼ぶようになったが、実際の所一部の者を除いて誰も勇者の顔、名前を知らないのが現状である。
その為勇者が今何処にいるか、いや勇者が何処にいたかすら誰も知らない。
しかしある一点だけ例外がある。勇者は魔王を倒した。その事は皆知っている。そしてそれはこうも意味するのだ。勇者は魔王を倒すため彼の本拠地、都市キリヤルに行ったと。
魔王は最初に落とした地であり本拠地としたキリヤルから離れることはなかった。
その事は魔剛達の会話で判明し、各地にいた獣丸族が魔王と呼ばれる存在を見たことがない事でも明らかであった。それこそ街を侵攻する時も。
そんな魔王を倒すには必然的に彼の本拠地である都市キリヤルへ行かなければならない。
故に勇者がキリヤルに居たことは明らかなのだ。勇者の居どころについての情報がない今、キリヤルという場所に僅かな望みを託すしかない。
当然リガンもその事を知っており、本心では旅立ってすぐにもキリヤルへと行きたかったのだ。
しかしキリヤルは今では獣丸族すら立ち寄らない無法地帯との噂であり、そのような地に、力もない人間一人が行くのは無謀と言う他ない。
その為リガンはキリヤルへと行くことが出来ず、ラスルト地方で勇者についての情報を細々と探し求める羽目となっていた。
そのような時トルクが現れたのだ。
そしてトルクの強さはリガンを確信させた。彼と一緒ならキリヤルに行けるという確信を。
リガンはトルクと一緒にキリヤル目指して旅をする際、三つの約束事を取り決めた。
一つ目はリガンは勇者の顔、名前をトルクに明かさなくても良いこと。またそれを詮索しないこと。
二つ目はトルクは旅の安全を守ること。
三つ目は勇者を見つけて以降は各々自由に行動する。以上の三つである。
一つ目の約束事はひとえにトルクの裏切りを防止するためである。
もしトルクが勇者の顔、名前を知ってしまったならリガンと旅をする利点を失い、トルクがリガンを裏切り一人で旅に出かける可能性があるのだ。それを防止するためにリガンがトルクに設けた約束事であった。
二つ目の約束事は等価交換である。リガンが勇者の顔と名前を知っているためそれを手がかりに勇者を探す代わりに、トルクはそれまでの間旅の安全を守る。その約束を明示したものである。
三つ目は両者が話し合って決めた事である。何故この約束事を取り決めたのかそれには理由があった。リガンとトルク、二人は勇者を探す為に協力はするものの、この二人それぞれ勇者を探す目的が相反したものである分、勇者を見つけた時に二人が行う行動はそれぞれ別のものとなる。それぞれの行動が妨げられないようにしたのがこの約束事であった。
世界エラントは横長の楕円形の上半分を切り落とした半円の形をしている。
そしてエラント北側は巨大山脈セレント山脈が大陸との境界をなしていた。
二人の当分の目的は世界エラントの南東部にある半島、キリヤル地方にある都市キリヤルである。
しかしこの二人が旅立ったマリエルは世界エラントの最西端ラスルト地方の中でも、さらに最西端の街であった。
その為マリエルとキリヤルこの二つはほぼ正反対側に存在しており、長期の旅になることは間違いものである。
現在リガンとトルクは世界エラント西部海岸側のマキアナ地方北部にいた。
そこで彼らはある村を探していた、その村とは獣丸族の村である。
何故彼らが獣丸族の村を探す事になったのか、それはマリエルを旅立ってから約一ヶ月後の9月25日の魔剛との戦闘がきっかけであった。




