2.23 憎悪と感謝
「それが君が勇者の顔を知っていた理由か。だが何故僕に自らの過去を話す。君は僕に何を望む」
トルクが立ち止まりリガンに尋ねる。そしてトルクが立ち止まったことに気づいたリガンも止まり、トルクの方へ向き直った。リガンとトルク両者は向き合った。
トルクの反応は当然のものである。いきなり人の過去話を聞かされてその心意を理解する者はいないだろう。
リガンはもう後戻り出来なかった。既に自分の過去、勇者の事を話した。
後は結論を言うだけである。自分の運命を左右する結論を。
「私とまた一緒に旅をしませんか。私なら勇者の事を知っている。トルクの勇者を探す旅に役立つはずです」
それはリガンの誠意であり本音であった。リガンの提案、いやリガンの率直さにトルクは少しばかり驚く表情をしたが、まだ何か引っ掛かる所があるのか直ぐには返答しない。
二人の間に気まずい空気が流れる。そんな中先に口を開いたのはトルクであった。
「……君は勇者に会いたい、それも良い方面の理由で」
「はい、そうです。私は彼に会って言いたい。あの時言えなかった言葉を」
トルクに対しリガンは自らの思いを答える。勇者の事となる分リガンの声には静かながらも熱がこもっていた。それに比べトルクの声は冷めている。
「君は感ずいているだろ、僕が勇者を憎んでいるって。そんな僕の復讐とも言うべき旅に協力しようと言うのか」
「それは大丈夫です。勇者は貴方に負けませんから」
リガンの断定にトルクは目を丸くする。
リガンとしてはこの答えは昨晩考えに考えて出した結論であった。トルクが自分と旅をしたいと思わせるには、自分と旅をすることの利点を示さなければならない。
そして利点があるならばそれは自分が勇者を知っていること。しかしそれを話せばトルクの勇者探しに手を貸してしまうことになる。
リガンにとってそれが問題であった。トルクが勇者を憎んでいる。それは明白であったためだ。
考えに考えた末リガンは結論を出した。勇者、トレンさんがトルクに負ける筈がないから問題ないと。
しかしこれはリガンの私情が入り込んでいる。どんな手を使ってでも勇者であるトレンさんに会いたい、という私情が。
トルクは顔をうつ向かせた。その為リガンはトルクの顔を見ることが出来ないでいた。
少し経つとトルクの肩が僅かながら震えだす。すると顔を上げ声を出して大声で笑い出した。それは長々と辺り一面に広がる笑い声である。
トルクの豹変ぶりに今度はリガンが目を丸くした。
「ハハハッハァ……面白いな君は。こちらからも頼む。一緒に行こう。勇者を探しに」
朗らかになった声でトルクもまた決断した。リガンと一緒に勇者を探す旅に出ることに。
当然ながらリガンは喜び、それに加えトルクの手を取りぶんぶん振り回した。
ここにトルクとリガンの奇妙な関係が生まれた。
トルクは勇者を憎悪しリガンは勇者に感謝している。相反する考えをもつ二人が勇者を探しに一緒に旅をするのだ。それを奇妙と言わずして何と言うだろうか。
リガンがトルクからようやく手を話すとトルクは今度の事について尋ねた。
「僕より君の方が勇者に詳しい。それで尋ねたいんだが次の目的地はどうする。もう勇者に関する噂はここいらにはない筈だが」
トルクの質問はリガンに次の目的地を決めさせるものであった。
しかしその問いにリガンは迷わず答える。何故ならリガンの行かんとする場所はトルク無しには行けない場所であり、リガンがトルクを誘った目的の中で一番重視していたものだからだ。
リガンは答えた。はっきりと迷いなく。
「私達の次の目的地はかつての人間中心地、都市キリヤルです」
日が沈み闇が深くなり始めた頃、その言葉が辺りに響く。
それは二人の目的地が定まった瞬間であった。
これにて第2章終了です。




