2.20 事の結末
萎縮した偽勇者が取った行動は意外なものであった。
それは逃げである。偽勇者はトルクに背を向けるとこの場から離れようと走り出した。
しかしそれは結局無駄な努力であった。
偽勇者が走り出した時、リガンはまた剣を鞘に納めるトルクを見る。その行動に嫌な予感がした。何故なら先程行った偽勇者の腕切断の時もトルクは剣を鞘に納めていたからだ。
まさかまたやるつもりなのか。リガンはそう思い、そして事はリガンの想像した通りになった。
偽勇者は走り出して間もなく右足の踏ん張りが効かなくなり前に転んだ。しかし転んだ事はどうでもいいのである。問題はどうして転んだか、その原因である。
偽勇者は察した。なぜ右足に力が入らないのかを。そして確認の為、いやこの予想が外れて欲しい、その思いで恐る恐る右足を観た。しかし予想は覆らなかった。
偽勇者の右足、足首の上のズボンが切られていた。それも切り跡は一周しており下にある皮膚もそれと同じ形で氷の筋が一周していた。
切断されたのだ右手と同じく今度は右足を。
転んだまま偽勇者は見上げる形でトルクの顔を見る。
そして目に写ったのはトルクの無表情な顔であり、偽勇者はそこに言い表す事が出来ぬ恐れを感じた。
「まさかこんな事をしておいて何の責任も取らないって言うんじゃないよな」
トルクの言葉は冷徹な響きを思わせた。
「じゃあどうしろって言うんだ、俺に何をしろと」
偽勇者にもう覇気はなく、すっかり逃げ腰になっている。
しかしそれも無理なからぬことである。何故なら右足、右足を切断され、早く医術士に見せなければ縫合してもらうことが出来ないのだから。
そんな偽勇者にお構い無しにトルクは要求する。
「お前盗賊だな。だったら金少し位持ってるな。それを全部よこせ」
「金?それなら有ります有りますお金なら。はいっ、これです」
偽勇者は弱気かつ早口でトルクの要求に素直に応じ、ガリー硬貨の入った小袋を差し出す。
そしてトルクはそれを受けとると片足を引きずりながら逃げていく偽勇者を何もせず見逃した。
「あそこまでやる必要は合ったんですか」
偽勇者が立ち去るやいなやリガンは尋ねる。
リガンは偽勇者とトルクとの一連のやり取りを後方より見ていた。
そしてトルクのやり方に疑問を持ったのだ、あそこまでやる必要があったのかと。
「あるさ。それに奴に対し責任が僕らにはある」
「どこにそんな責任があるのですか」
リガンの声がきつくなる。
リガンはトルクの言う責任の意味が分からなかった。どこにそんな責任が自分達に有るのかと。
リガンが疑問を持つのは当然であり、トルクはその疑問に答えるべく説明した。
「奴らは君を襲った。恐らく人質として利用し、交換条件として僕の魔具を要求しようとしたんだろう。それだけでも十分に僕らには奴らを倒す権利がある。それに本来なら僕らは奴らを見逃さず、ここの行政か住民達に差し出さなければならない責任がある。その代わりに相応の事をやったまでの事だ」
「じゃあどうして捕らえて差し出さなかったんです」
「奴らが被害者ずらして嘘を並べたら、審議のためここでしばらくの間足止めを食らう羽目になる可能性がある。そこまでしてやる義理はこの街にはない」
トルクの答えを全て理解することも、受け入れる事もリガンには出来なかった。
それほどまでトルクの思想はリガンのとはかけ離れていた。
権利?責任?何だかんだ言って奴に、偽勇者を恨んでいたからあそこまでやったんじゃないかと。リガンはそう思わずにはいられないのである。
しかし手段はどうであれトルクがリガンを救ったことは事実である。
リガンはその点に関してはトルクに感謝していた。
「その事はひとまず置いておくとして、ありがとうございました。助けに来てくれて。お陰さまでまだ旅が出来そうです」
ごほんと咳払いし、空気を変えると、リガンはお礼をトルクに申す。
トルクも先程のリガンの責めを気にしないのか、変わらない態度で接した。
「それは良かった。それはそうと今夜はどうするつもりなんだ。寝床なら宿屋ではないが、さっきまで僕らがいた店の主人が提供してくれると言うが」
それは店にいた時、リガンがトルクと決別することとなった提案である。
しかし今回は違う行動をリガンは取った。
トルクの申し出をリガンは受けることにした。




