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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第2章 彼と勇者と……
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2.19 同じ結末になるとは限らない

「くそぉぉ!」


 突如として叫ぶと、偽勇者が背中にある大剣を引き抜きトルクに向かって猛々しく迫り来る。

 しかしトルクはそれに対し何もしない。剣を構える事なく力を抜いた状態で相手の攻撃を待つ。


 ドカァッ

 鈍い音が響き渡る。昼間の時と同じく偽勇者がトルクに大剣を振り落としたのだ。

 発生した砂煙が偽勇者とトルクの二人を包み隠す。

 しかし今度はリガンは不安に陥ることはなかった。トルクの力量を見た今、あの程度の攻撃で殺られるとは思えないからだ。

 そして実際トルクは無事であった。

 昼間と同じく振り落とされた大剣に片足を乗せた状態でトルクは立っていた。

 そしてその行動に偽勇者の怒りはますます強いものとなる。


 それ以降は昼間とほぼ同じである。トルクは顔ひとつ変えず偽勇者の攻撃をすれすれのタイミングで交わしていく。

 違っていたのは偽勇者の顔が昼間と比べより怒り心頭の表情をしていた事位である。

 

「てめぇふざけてるのか。いい加減攻撃してこい!」


 昼間と同じく疲れ息を切らしながら、言葉では強気の発言を偽勇者はする。

 実際ここまでトルクは行動をかわしてばかりであり、魔具である剣を偽勇者相手に振るおうとしない。

 偽勇者としては舐められるのに我慢の限界が来たのである。

 しかしもしトルクが最初から全力なら直ぐに決着はつくだろう。そうしないのはひとえに偽勇者に対し憎悪を抱いているためだとリガンは考えていた。相手を舐めくさり小馬鹿にするために。

 

「いいのか、攻撃しても」


 トルクがまるで相手の了承がなければ出来ないというかのような口調で尋ねる。それは言われた側からしてみれば最大限の侮辱であった。

 言われた側、偽勇者の顔が更に赤くなる。


「いいから来いって言ってんだよ!」


 脚を一歩踏み込みトルクに近づき大剣を振り上げる。

 しかしその時トルクのとった行動は剣を鞘に納めることであった。

 リガンが驚き、偽勇者の笑みが表れる中、トルクは鞘に納めていた剣を再び握った。


 ドカッァ。

 再び偽勇者の大剣が地面に突き刺さる音が辺り一面に響く。

 しかし今回のは今までとは現状が違っていた。

 偽勇者はトルクに向かい大剣を振り落とそうとしていた。軌道は完全にトルクの図上であり、トルクは剣を鞘に納めていた。

 偽勇者が勝ちを確信するのは無理なからぬことである。しかし問題が起こったのはその後である。

 偽勇者が大剣を手から落としたのだ。落ちた大剣は音を鳴らし地面に突き刺さった。

 代わりにトルクは先程鞘に納めた筈の剣をいつのまにか抜剣していた。そしてリガンや偽勇者はトルクが抜剣する瞬間を見ていない。

 偽勇者は何が起こったのか分からないといった感じで放心状態である。

 

「な……何で俺落としたんだ……?」


 まるで大剣を落としたのは自分自身の意思ではないかのように呟く。

 偽勇者は大剣を支えていた右手を顔の前に持ってくる。右手で握りこぶしを作ろうと力を込めるが右手は反応しない。

 偽勇者の顔に不安の影がよぎる。再び力を込めるが右手はやはり動く気配がない。

 今度ばかりは怒りではなく不安、恐怖が偽勇者を支配していた。


「て、てめぇ俺の右手に何しやがった!」


 叫ぶというよりは泣き叫ぶといった声で偽勇者はトルクに尋ねる。

 トルクは握っていた剣を偽勇者の右手に向けた。


「よく見ろ」


 トルクは説明することなく簡潔にそう言っただけである。

 そんなトルクに怒る様子もなく偽勇者は自身の右手を注視してみた。

 そして気づいたのだ、右手首に薄い氷の線が走っていることに。それは腕を一周し、元の線に合流していた。

 それは先程、偽勇者の子分達との戦いで見慣れていたものである。トルクは切り傷を作ると同時に作った傷口を凍らし止血していた。

 他と違うのは氷の傷口が腕を一周していること。そう考えた時偽勇者は自身に何が起こっているのか理解した。 

 偽勇者の顔が蒼白になり、汗が吹き出て始めていた。


「てめぇ俺の右手を切断しやがったな」

「切断したのをくっつけてやったんだ、礼を言ってほしいな」


 偽勇者の苦しげな問いにトルクはあっさりと答える。


「大丈夫だ、綺麗に切断をしたし、それにこの魔具の氷魔術でくっつけておいたから菌も入っていない。今なら医術士に見てもらえば元通りの腕になる」


 補足にトルクは付け加える。しかしそうは言われても言われた側からしてみれば恐ろしいことにかわりない。

 目の前にある腕が切断されていると知り、冷静を保てる者がいるだろうか。

 そのことに偽勇者も例外ではない。

 最早彼に先程までの勢いはなく、狼狽え怯えているばかりであった。

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