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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第2章 彼と勇者と……
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2.18 血は流れない

 前から二人、後ろからは三人、計五人がリガン・トルクに挟み撃ちする格好で襲いかかる。

 この状況にリガンは戦慄を覚える。旅立って以降最悪と言ってもよい状況下であり、いくらトルクが一緒だと言っても安心することなどが出来ないでいた。

 しかしそんな状況下であってもトルクは冷静である。そしてそんな彼の横顔を見てリガンは少し気分を落ち着かせる事が出来た。


「後ろにいろ」


 静かに命令口調でトルクは言う。そしてリガンはその指示に素直に従った。この場面を乗り切る為にはトルクの進言に従うしかないと思ったからである。

 そしてついにトルクの魔具である純白の剣と相手の剣が火花をちり交えた。


 もしそこに何の関係もない、トルクの強さを知らない者がいたら驚嘆し、これが夢なのかどうか疑うことだろう。

 トルクの力量は素人目にも明らかである程であった。

 トルクは常に動き回ることで囲まれること、そしてリガンがいる背中に回り込まれ無いようにしている。

 そしてトルクの魔具、剣が華麗に舞う。トルクは相手ともろにつばぜり合いをせず、相手の剣の軌道を逸らさせるようにし、相手の懐を無防備にさせ、斬っていく。

 その手腕は見事なまでの華麗さであり、トルクは勿論のことリガンすらも傷をうけることはなかった。


 しかしトルク関連で言えば、その強さの他にもうひとつ気づくことがあるだろう。

 トルクは魔具の剣による幾つもの切り傷を相手につけている。しかし摩訶不思議な事にその戦闘において血が一滴も流れていないのだ。切り傷を受けていないトルク・リガンは勿論のこと切り傷がある相手の五人全員とも。

 

 リガンは最初こそ自らの身を守るため、トルクの背中にくっついているのが精一杯であったが、暫くすると戦闘を観ることが出来るほどの余裕を持つことが出来た。

 そして気づいたのがトルクの凄さとこの戦闘の違和感である。

 最初こそリガンは気づかなかった、その違和感の原因に。

 そしてトルクの剣筋を観るようになってようやく気づいたのだ。トルクの作る切り傷から血が出ていないことに。

 トルクの作る切り傷を注目すると傷口が凍っているのにリガンは気づいた。

 トルクは斬ると同時に切り傷を凍らせて止血させていたのだ。

普通の剣では出来ない、魔術を出せる魔具ならではの芸当である。

 

 しかしそんな光景を観て誰もが思うであろう。どうして敵の止血を行うのかということに。

 当然ながらリガンもその行為を不信に感じた。敵の止血を行うなど百害あって一理なし。トルクに得する事など無いはずである。

 今だトルクの全てを理解する事は、リガンには出来ないでいる。

 

 止血をされているといっても当然痛みは有るため男達の動きは次第に鈍くなっていく。

 それに加え男達はトルクの摩訶不思議な行動に次第に恐怖を抱くようになっていた。

 何故なら切られたはずの傷口が凍らされているためである。もしこれが馬鹿ならば血が出ずに済むと肯定的に考えるだろう。

 しかしリガンらを襲った男達はそんなに愚かでない。傷口が凍らされているのには何か相手の思惑があると考えるだろう。しかしいくら考えてもその思惑、理由が見当たらない。

 もし実力が拮抗している者同士なら警戒ですむのだろうが、この時男達とトルクとの間には確固とした実力差がある。

 そのため男達はトルクの考えを読もうと空回りしている状態にあり、次第にそれは未知なるものへの恐怖へと変わっていく。

 

 先に一人が偽勇者がいるのとは反対側の通路へ逃げていった。

 そしてそれを見てまた一人、また一人と続々逃げていく。


「てめぇら逃げてんざねぇ!」


 そんな偽勇者の怒声に誰も耳を貸すことなく逃げていく。

 男達からしてみれば体は傷だらけで痛みは激しく、またトルクの謎の行動による恐怖で一刻も早く逃げたいと思っていたのだ。

 誰か逃げ出す奴はいないか、最後らへんはみなそう思っていた。


 男達が全員逃げ出した後、棒立ちしている偽勇者に向けてトルクは剣を向けた。


「お前は来ないのか?」


 動いていたトルクの赤みのない顔とは正反対に、動いていなかった偽勇者の顔が赤一色に染まった。

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