2.17 本当の目的
舞い落ちるメガトリ粉の中に表れた人影はゆっくりとこちらに近づいてくる。
そして近づいてくる毎にに人影がはっきりとしてきた。背が高く、そして左手には剣を持つ影。
そしてその人影にいつしかリガンは勇者の面影を重ねていた。
一緒に旅をしている間勇者は片手に剣を携えて皆を助けていた、その頃の姿が人影と重なり勇者の面影をリガンに見せている。
「だから言ったじゃないか、君を狙っているかもしれないって」
その声でリガンは過去の思い出、勇者の面影から現実の世界へと舞い戻る。その直後、メガトリ粉から一人の男が姿を表した。
メガトリ粉から抜け出て表れたのは勇者ではなく、トルクであった。彼の左手には白く輝く剣が握られている。
当然ながらリガンは驚いた。確かにあの時勇者の他にもう一人、トルクのことを思い浮かべていた。けれど本当に来るなんて思ってもみなかったのだ。何せトルクとは別れた際自分はあんなぞんざいな態度をとってしまったのだから。
「ありがとうございます……助けに来てくれたの?」
リガンはいまだ事態を上手く飲み込めなかった。この時のリガンの顔は驚くと同時に困惑した表情となっている。
それとは正反対にトルクの顔はこんな時でもいつも通りの無表情さである。
「さすがにあのままという訳にはいかないからな」
いつもなら嫌に感じるトルクの無愛想な感じもこの時には頼もしくリガンは感じられる。
しかしそんなトルクにもこれまでとは違う点があった。それは左手に持っている剣である。
リガンがその剣の刃を見たのはこれが始めてであった。何故ならトルクは如何なる時も剣を鞘に納めており、引き抜くことなどなかったからである。
鞘や柄は白く美しい色調で統一されていたが、驚くことに今回初めて露になった刀身も純白であり美しく光輝いていたのだ。それも金属が光を白く反射させているのではない。正真正銘剣の刀身が純白の色をしていたのである。
リガンはトルクに初めて会ったときから彼が持つ剣に奇妙な既視感を抱いていた。
初めて見る剣なのは間違いないのだが、これと良く似たのを何処かで見た覚えがしたのだ。
そしてつい先程勇者の面影を見たこと。魔術を使うための道具、杖なしで氷魔術を使ったこと。そして刀身が純白の色をしていること。以上の三つでリガンは確信した。
リガンがトルクの持つ剣に既視感を感じるのは当然であった。
何故ならそれは勇者が持っていたのと同型であったからである。
リガンがその剣の名を思い出し、口にしようとした時、まるでリガンの思考を読んだの如く別の人物がその名を口にする。その人物はリガンやトルクでもない、意外な人物であった。
「やっぱり魔具じゃねぇか」
口を開いたのは偽勇者である。しかもその口調は前から分かっているようであった。
意外な人物にまたリガンは驚くこととなる。偽勇者が急に喋ったためというのもあるが、それ以上に魔具について知っていることに驚いたのである。何せ魔具はその名を知る者が殆どいない程の逸品であるからだ。
リガン自身勇者に会うまで魔具に関する事は本の中でしか知らず、知っている内容も微々たるものであった。
「知っているのか」
トルクが魔具を小さく振りながら尋ねる。
揺れる魔具は様々な角度で光を反射し、観たものを虜にするような美しさを放つ。それに半ば目を奪われつつ偽勇者は答えた。
「噂ぐれぇなら知っているさ、何でも杖を使わずして魔術を使うことが出来る品物だとか。しかもそいつは魔術を使えることだけじゃなく同時に武器として使えるっていうじゃねぇか。さすがに噂を聞いた時は冗談だと思ったが現実に目の前に出されちゃあ信じるしかねぇよな」
「というとお前は昼間ので気づいたのか。てっきりばれないかと思ったが」
この時のトルクの二人称の言い方にリガンは違和感を覚えた。
トルクが相手のことを君ではなくお前と言ったのだ。
旅をしている間リガンはトルクに君と呼ばれ続けていた。そのためリガンはトルクの二人称は君と統一しているものだと思っていたのである。しかし今回トルクは偽勇者に対し君ではなくお前と呼んだのだ。
明らかに君より無礼な言い方にリガンはトルクの本心を垣間見た気がした。一見変わらない無表情の中に隠れている本心を。
トルクの旅の目的は勇者を探すことだとリガンは考えていた。
そしてここマリエルまで来て出会った勇者は偽者である。リガンはこの事に対し失望と憎悪を感じていた。
もしかしてトルクもそうではなかったのか、リガンはこの時初めてその事に気づいた。
もしそうであるならばトルクが偽勇者を見た時の表情、そしてその後の自分を守ったかのような行動にも納得がいく。
そしてまたトルクは偽勇者に対し自分と同じ憎悪を抱いていると思われた。
リガンと彼女がそう洞察したトルク、そして両者が憎しみを抱く偽勇者の問答は今だ続いていた。
「あぁ気づいたさ、俺の自慢の大剣がぶったぎられ、その切断面を見たときにな」
そう言い偽勇者は背中にある大剣に指を指す。やはり背中にある大剣は昼間にトルクに切られたのを直した物であるようである。
「それで僕の魔具欲しさに彼女を襲ったって訳か」
「……ええっ!」
トルクが平気な顔でそう言うのでリガンは驚くのが一瞬遅れた。
それもそうである、襲われたのはリガンなのに襲った方、つまり偽勇者の本当の目的はリガンではなくトルクの魔具だと言うのだから。
「そうさ、てめぇが持ってるその魔具を奪うためさ。それでどうだその魔具を俺によこすつもりになったか。今なら無傷で帰してやるが」
偽勇者はあっさりその事を認めると同時に脅しをかけた。偽勇者の言葉に前にいた子分二人が剣を手に取り臨戦体制になる。 すると後ろでも音がした。振り変えるともがき苦しんでいたはずの男達三人が同じように剣を取り臨戦体制に入っていた。どうやらトルクが舞っていたメガトリ粉を凍らせてた為、男達はそれ以上のメガトリ粉を吸い込まずにすんだらしい。
今やリガン・トルク両者は前・後ろの計五人の者達に囲まれていた。
意地の悪い笑みを浮かべる偽勇者に対し、トルクはこんな状況下であってもいつも通り冷静である。そしてトルクは昼間と同じく偽勇者の神経を逆撫でする行動に出た。
「よこすつもりは無い」
はっきりと揺るぎ無い言葉でトルクは宣言する。
そしてそれを聞いた偽勇者の顔はこれまで以上に顔が崩れ、不快な笑みとなった。
そして偽勇者の次の言葉で状況は激変した。
「てめぇらやっちまいな!」
その言葉を合図にリガン達の前・後ろから五人の男達が襲いかかってきた。




