2.13 落ちた好意
「観られてるって、それ本当ですか」
掠れ、裏返った声を出してリガンは尋ねる。
リガンが疑うのも無理の無いことである。いきなりそんな事を言われ素直に受け入れるのは常人では無理である。そしてリガンは常人であり、修羅場をくぐってきていない。
「本当だ。後ろにいる男三人組は平静を装いながらこちらを観ている」
冷静にトルクは言いながらコップの水に手をつける。
リガンは後ろを振り向こうとするが先程注意されたことを思い出し確認するのを止めた。
しかし見る事が出来なければ余計に気になるものであり、リガンはもどかしい気持ちになる。
しかしよく考えてみると観られているっていっても目的は多種多様である。悪い事目的ではないかも知れない。リガンはトルクに尋ねた。
「観られてるっていっても監視目的とかの悪い方面じゃないかも知れないじゃないですか。例えばほら私達服装珍しいですし、興味半分で観ているだけかもしれないし」
リガンは例えを出して自身の考えをトルクに説明する。
実際この時のトルクやリガンの服装は、旅人が着るような丈夫さ重視の単純なものであり、住民達が着るような装飾が施された服ではなかった。
しかしその説をトルクは否定した。
「いやその線はないと思う。確かに僕らの服は珍しいが、それならあんな注意深げに、気づかれないように観ないだろう」
「じゃあただ単に私達を怖れてるんじゃないですか。だってトルクあんな凶暴そうな奴を倒すんですもん」
実際トルクが偽勇者とした戦闘は一瞬でマリエルに広まったらしく二人が歩いていると人々から声をかけられたものである。
しかしこれもトルクは否定した。
「それもないと思う。観ている人達は慎重だか怖れているようには見えない」
「じゃあ金銭目的?私達こんな大金を持っているから」
テーブル上にある小袋を指し示す。
今度はトルクは否定しなかった。
「その可能性はあると思う。もうひとつ付け足すなら君の可能性もあるけど」
「私ですか」
リガンは驚いた。その可能性は頭から抜け落ちていたからだ。
しかし直ぐにその理由をリガンは思い至った。今リガンは変装しておらず男ではなく女として周りから見られているのだ。
そんな当たり前のことをリガンは頭に入れていなかった。これもまた大金が手に入ったことによる楽観的気分の成せる業である。
「そう君が前言っていた女独自の苦労というものだったか、その可能性は否定できない」
「じゃあどうするんですか。撒きますか?」
リガンは解決策をトルクに尋ねた。
「巻くことは難しいだろうな。僕らはまだこの街に着いてから半日しか立っていない。地の利はあちらさんのほうが上だ」
「じゃあこのマリエルから出て行くのはどうです」
「出て行っても奴らがついてこないとは限らないし、第一君や僕も次の旅の準備をしていないのにここから出ることは出来ない」
「じゃあどうするんですか」
トルクの出した解決策はリガンにとっては最も最悪なものであり、リガンの失望をかうものであった。それこそ軽蔑するほどの。
「取り合えず観ているからといってこちらから手を出すことは出来ないし、あちらから行動してくるのを待つしかない。だからそれまで一緒にいるしかない。それこそ寝るときも」
リガンは心中のトルク像が崩れていくのが聞こえた。それほどまでその解決策は駄目なのだ。
何故ならその解はリガンにとっては負の意味を持っているのだから。




