2.12 新たな災難
運ばれてきた料理はリガンの味覚を満足させるものであった。マリエルは他の街と比べ広大な農地を有している分多種多様な食材が揃っている。そのため出された料理も他の所では味わえない味であった。しかしだからと言って不味い訳ではなく、とてつもなく旨いのである。
人口が少ない村は住民同士が協力しあって暮らしている。そのため店という概念はなく、リガンが食事を頂くのは地元住民の手料理であった。確かに美味しい料理もあったが、このような場合家族好みの味付けとなるため、部外者であるリガンの口に合わない場合が少なからずあった。
しかしマリエルのような大きな街にある料理屋は客という第三者が食事をとるため、自然と味が洗練されてゆくのだ。
そのためリガンにとっては始めての食材を用いられた料理も美味に感じられたのだ。
リガンが料理を味わっている前で、トルクも同じく運ばれた料理を味わっている。
トルクの表情はいつもながらの無愛想ながら少しだけ笑っているようにもリガンは見えた。
今リガンとトルクは正面に向き合う形で料理を楽しんでいる。
しかし不思議なものである。リガンはトルクから逃げようとし、トルクの方は人の行為を嫌っていたのにその二人が一緒に食事をしているのだから。
リガンは気づいていないがひとえにそれは金が影響していた。一瞬にしておよそ半年間もの間旅を出来るほどの大金。それが一日で手にいれたのだ。これで冷静になれというのが無理な話である。
リガンがトルクから逃げなかったのはトルクが自分を傷つけるようなことはしないと考えたからなのだが、それこそが楽観的であり金が成せる業というものである。
このような訳でこの時リガンは楽観的に、上機嫌になっていた。
料理を食べている間、自然と目の前に座っているトルクの姿がリガンの目に入る。それを見てリガンは再確認することになるのだ、トルクとの旅もこの街で終わると。
そう思っている時、何か寂しい、悲観的な気分自身がなってことにリガンは気づいた。
リガンがトルクに旅の同行を許したのはひとえに人恋しさである。しかし旅はリガンの想像していたものでは無かった。トルクとの会話はリガンの満足いくものではなく、人恋しさの気持ちが埋まることではなかった。
何故このような気持ちに成るんだろうか、リガンは料理に舌づつみしている間考えていた。
トルクと別れると再び変装しなくては成らなくなる、そのため女の子らしくなれるのは今だけである。その事への名残惜しさなのか。
それとも安全に旅をすることが出来たことへの名残惜しさなのか。
いや、違う。リガンはより深く、自身の心の奥深くに入っていった。そうだ私は……しかしリガンの考えはトルクの声に遮られた。
「誘ってくれて有り難う。美味しかった」
見てみるとトルクの皿は空っぽであり料理をもう平らげていた。
「どういたしまして。そう言ってくれると誘った甲斐がありました」
リガンはまだ食べ終わっていなかったが、トルクの礼を丁寧に受け取った。
しかしまだトルクには良い足りぬようである。リガンの返答に直ぐに答える形で話しを続けた。
「話しは変わるが君は勇者の顔を知っているようだ。良ければ教えてくれないか。もちろん礼はする」
「別に良いですよ、礼なんて。これで十分ですしね」
リガンは笑いながらテーブルの上にある小袋を指し示す。中には大量のガリー硬貨が入っている。
この時リガンは安心仕切っていた。トルクの事に関しても、他の事に関しても。
しかしトルクは違っていた。先程から一変、トルクの目が険しくなったのにリガンは気づいた。
どうしたのか、何かあるのか。リガンは後ろを見ようと頭を振り向けようとした、しかしそれはトルクの声によって遮られた。
「振り向くな。君の後ろに僕らを観ている者がいる」
淡々と事実を伝える声が、リガンの耳に入ってきた。




