2.10 からかいの戦闘
ドゴォッ。
鈍い音が辺り一面に響いた。偽勇者が近づいてきたトルクに向かって突然大剣を降り下ろしたのだ。
「トルクッ!」
リガンは叫んだ。今や偽勇者とトルク両名は発生した砂煙に飲まれ姿を見ることが出来ない状況にある。
トルクがどうなってしまったのかリガンは不安であった。
トルクと一週間旅をしたとはいえリガンは彼の事を好きにはなれなかったし、勇者の件では正反対の考えを持っていた。
それに加えリガンが勇者の事を知っているとトルクに知られた今、トルクがいなくなる方がリガンにとって都合が良いはずである。
しかし理屈ではなく感情で動くのがリガンでありこの時トルクの安否を本気で心配していた。
リガンを含めた群衆全員が固唾をのんで事の推移を見守る。
砂煙が次第に薄くなると中から人影が表れた。
「この大剣は、良いものだね」
砂煙が薄くなりトルクと偽勇者両名が表れた。その姿を見てリガンは安堵した。無事なだけじゃなくトルクには傷ひとついていなかったからだ。
トルクは片足で地面に突き刺さっていた大剣を踏んでいる格好でその場に立っていた。
しかしながら偽勇者からしてみれば皮肉を言われていると思われても仕方がない状況下であり、事実先程の発言からも分かるとおりトルクは偽勇者を舐めていた。
「大剣は、だと。だったら俺様は良くねぇとそう言いたいのか!」
怒り狂った様子で偽勇者はトルクの片足が乗った大剣を引き抜く。
トルクは乗っていた片足を引き下げると相も変わらず偽勇者の正面に立っていた。
端から見ても舐めているのがまる分かりなトルクの行動に偽勇者の怒りは最高点に達した。
「てめぇは許さねぇ!」
観ている者が思わず萎縮してしまうような怒気がこもった声でそう宣言すると大剣をトルクめがけて再び投げ下ろす。
この攻撃はすんでの所で勇者にかわされ地面へと再び突き刺さる。砂煙が再び舞い上がったが今度は晴れるのに時間はかからなかった。
砂煙が上下に真っ二つに割れる。偽勇者が大剣で凪ぎ払ったのだ。その攻撃も上半身を仰け反らせてトルクはギリギリの所でかわす。
しかしかわしたトルクめがけて大剣の遠心力を利用して体を回転しより速さがました蹴りの追及が放たれる。
しかしこれもまた後ろへ一歩下がったトルクはすんでの所でかわす。
「良いぞ良いぞお兄ちゃんどんどんかわせ、かわしまくれ」
「なにやってんだい。速く反撃しなよ」
自身に関係がない群衆からは好き勝手な雑言が飛び交っている。しかしながら関係者、リガンにとってはそんな事をとてもじゃないが言える気分ではなかった。何故ならトルクが危なげに偽勇者の攻撃をかわしているからだ。
リガンはトルクが攻撃されるたび冷や汗が出る思いで見守っていた。
最初こそリガンはトルクがかわすことに専念しなければならないほどに偽勇者が強いものだと思っていた。
しかし時がたちトルク・偽勇者の攻防を観ている内にリガンは自身の考えが誤っていることに気づいた。
トルクはかわすことに専念している、それは確かである。しかし理由が違う。トルクがかわすことに専念しているのは偽勇者が強いからじゃない、トルクはからかっているだけなのだ、偽勇者を。
トルクか相手の攻撃をかわすときいつもギリギリのタイミングである。
本来ならかわすことしか出来ない状況下ならかすり傷の一つや二つ付いてもおかしくない。しかしトルクは今だ傷ひとつ付いておらず、おまけに全くばてていなかった。
むしろばてているのは大剣を振り回していた偽勇者の方である。
「ちょこまかとかわすんじゃねぇ」
その声は疲れきっており肩で息をしている有り様であった。
「ならもう止めておくか」
相手とはまるで違う涼しげな声でトルクは提案した。
しかしそれで素直に引き下げるような弾なら、そもそも喧嘩を売ったりする筈がない。
血走った瞳で偽勇者は答える代わりに大剣をトルクの頭上へ降り押した。
幾度目かの砂煙がまた巻き上がったが今回はこれまでとは少し違っていた。
一瞬ではあったが砂煙のなかで閃光が煌めいた。それこそ意識していなければ見逃してしまうほどの小さく、一瞬ではあったが。
砂煙が上がり、群衆は二人の闘いに決着が着いたことを知る。
闘いは偽勇者の大剣の柄の根本部が真っ二つに切れたことで終了した。
この時大剣の柄の切断面を見て偽勇者はある確信を得ることとなる。
トルクが切った柄の切断面は薄い氷で覆われていた。




