2.9 不可思議な行動
「あんた勇者を知っているのかい」
「教えてくれよ。勇者ってどんな奴なんだい」
「勇者って男なのか女なのか、いやそもそも人間なの?」
「勇者ってほんとに魔王を倒すほど強いの?」
「やっぱりあそこにいるのは偽者かぁ。なんか胡散臭いと思ったぜ」
「ほんとにいたんだ勇者様。ぜひお会いしたいわ」
「その通りだぜ。だからあんた教えてくれよ勇者のこと」
「顔を知ってるんでしょう。どんな顔なの、格好いい?」
みな思い思いの言葉を一方的に話すのでリガンは困惑せざるを得なかった。
今や注目の的となっているのは偽者の勇者ではなくリガン・トルクである。
しかし勇者の顔を何故知っているか、それを言うことは出来ない相談であった。何故なら側にトルクがいるためである。
トルクは勇者を憎んでいる。それは明らかであった。
リガンが何故勇者の顔知っているのか話すこととなったらあの事にも自ずと触れなくてはならなくなる。勇者と一緒に旅をしたことがあるということを。
だがそれを知ったらトルクがどのような行動にでるかリガンは想像することが出来なかった。それ故にこの一週間、トルクと旅をしている間その事は隠し続けてきたのだ。
だが自分の勝手な勘違いのせいで、勇者の顔を知っていることを露見してしまい、そのことがばれてしまうのは時間の問題となっていた。
そのため今のリガンのすべきことはいち早くトルクの元から離れこのマリエルを脱することであった。しかし今や群衆がリガン・トルクの周りを囲い混み離そうとしない。
リガンは焦りだした。早く離れなければ止まっていたトルクの詰問が来てしまう。その前に離れなければどうなるか分かったものではない。
そんなリガンを救うかのごとく声が響き、リガン・トルクを囲んでいた人混みが離れていく。だがその声はリガンを別の問題へと誘うものであった。
「おいおい誰だ俺を偽者呼ばりした野郎は」
大きく、威圧的な声で偽者の勇者、偽勇者が人混みへ向けて言い放つ。
偽勇者はそれこそ筋骨たくましい大男であり、それに加え背中には大剣がぶら下げていた。
そのため群衆は怖れ偽勇者から遠ざかった。後に残ったのは逃げ遅れたリガンと何故か逃げようとしなかったトルクこの二人のみであった。
メガトリ粉を使うべきであろうか。リガンはそう思い右の腰に掲げられたポーチからメガトリ粉が入った小袋を取り出そうと右手を動かそうとした、その時であった。トルクが偽勇者の方へ一歩歩み出たのは。
「僕が言った」
静かにトルクが答える。
だがこのトルクの行動をリガンは理解することが出来なかった。
私を庇った?いや違うトルクは人助けを嫌っていた。じゃあ何故?
リガンは困惑し、自分こそが言った本人であると言うことが出来なかった。
「お前が言ったのか、ちょっと面拝ませろよ」
偽勇者はトルクに来るよう手引きした。
そしてトルクは怖がる様子もなく素直に相手の指示に従った。
一歩ずつゆっくりと、確かな足取りで歩いて行き偽勇者の前に立とうとした瞬間、大剣が音もなくトルクの頭上に降りかかった。




