0.1 彼と彼女と……
処女作です。よろしくお願いします。
-E.W529年7月15日 とある村-
「行かないでお姉ちゃん、ずっとここにいてよ」
青い瞳に白い肌の小さな女の子が涙目ながらとある少女の足にしがみつき、ここに残るよう訴えかけている。そんな二人の周りには村の住民である者達がおり二人を囲んでいた。周りの者達は女の子と同じく青い瞳に白い肌をしている。その為すこし赤みを帯びている肌をしていた少女が目立つこととなった。
「そうだ、行くことないじゃないか。今まで通りずっとここにいたらいい」
「そうだよ、もうあんたはこの村の住民なんだから遠慮することなんかねぇ」
その女の子の行動に心動かされたか周りから少女を引き留めようとする声が相次いだ。
その言葉は今まで自分の居場所を見つけられなかった彼女にとって何よりも嬉しい物であった。
しかしそれで彼女の決意が揺らぐはなかった。
「私にとってもここは故郷と初めて呼ぶことができる場所でした。出来ることならここにずっといたいです。けど私にはどうしても会わなければならない人がいるんです」
少女の熱意ある声に、周りの者達は息を潜めたが、それを打ち破る者がいた。
「そんなに彼に会いたいのかい」
かすれた声がしたかと思うと、声がした方向の人ごみが左右に別れ、道の真ん中に杖をついた老婆が現れた。
老婆の顔はしわくちゃで目は細く、瞳を見ることすら叶わない。
そんな老婆を見るやいなや少女の足にくっついていた女の子は彼女から離れ、子供が偉い人と会ったときのように体のあちこちを硬ばらせながら親のいる人ごみへと戻っていった。
「会いたいです。いえ、会わなければならないんです」
周りの人々が老婆の出現に萎縮するなか、少女は変わらない態度と声で接する。その行動は彼女がこの村の人間ではないことの証でもあった。
そんな無礼ともとれるような態度を前にしても、老婆はいさめるような発言はせず、別の事を口にした。
「しかし、彼らがこの村に君を残したのは自分達の旅が危険であり、君を巻き込みたくなかったからじゃないかね。それなのに君は彼会いたさに今の世の中に旅立つというのかね」
老婆の声は彼女の決意を推し測る響きを持っていた。本当に行く気なのかと。そして少女はその言葉の意味する所を正確に理解していた。
「魔剛族のことですね」
少女がその単語を口にした瞬間周りの者達の表情が険しいものとなる。しかしながらただ一人、老婆だけは表情を変えなかった。
「いかにも、今この世界は魔王の配下であった魔剛共が至るところで闊歩している有り様じゃ。そんな世の中へ旅立ちたいと言うのかねリガン」
それは老婆、村長自らが彼女、リガンに対し最後の決断を尋ねる言葉であった。
旅立つのか、ここに残るのかどちらであるかと。
だが、それでリガンと呼ばれた少女の決断は揺らぐことはない。
リガンとしてはこの村に来たときから、この日が来ることになるだろうと思っていた。
この決断が自分の人生を左右することになる、そのことをあらかじめ理解していたし、そしてずっと前に、それこそこの村に来たときから答えは決まっていた。
「はい、行きます。どうしても伝えたいことがあるから」
リガンの声は、周りの人々へと染み渡るように広がり、そして老婆の耳へと届けられた。
-同日同時刻 とある村-
彼は一人だった、この広い村にたった一人。
彼がここにいる理由はすでに失い、そして今まさに彼も旅立とうとしていた。
「みんな、もう行くよ。いつ帰って来るか分からないけど必ず仇を取って帰ってくる。必ずだ。だからそれまで待っていてくれないか」
彼は地面に多くの石や木の棒が刺してある地で宣言した。
彼自身、自分の声が誰の耳にも届かないのは分かっている。けど、彼としては言わずにはいられなかった。彼にとって目の前にいる人々はかけがえのない人達だったからだ。
亡くなった人達の前で宣言した彼の瞳には、リガンと同じく揺るぎない決意が溢れていた。
こうして二人は旅立った。男と女、環境、そして抱いている感情全てが違う二人であったが、目的は共通していた。勇者を探すという目的だけは。