2.2 叶わぬ願い
-E.W529年8月30日ラスルト地方-
リガンとトルク両名が出会い共に旅立ってから1週間が経っていた。
今二人は勇者がいるという街、マリエル目指して旅をしている。
しかしながらこの二人の溝は相も変わらず埋まることはなく、リガンは若干の後悔を禁じ得なかった。
リガンがトルクの申し出、マリエルまで一緒に行くというのを受けたのはひとえに寂しいからである。
リガンはこれまでずっと一人で旅をしていた。そして人恋しくなった頃トルクが現れたのだ。確かにトルクはお世辞にも社交性があるとは言いがたいが、それでも話相手としては十分だろうと思っていた。
しかしリガンのその思いは打ち砕かれた。
トルクは無口ではなかった。リガンが話を切り出せばきちんと返事をするし、会話もする事が出来た。
しかし何かが足りないのだ。リガンはトルクと旅立って最初の日、すでに言い表せぬ違和感を感じていた。トルクと会話をしていても胸の中の空虚な部分が満たされず、空白のままなのだ。
リガンは誰かと一緒に旅をし、話もすればこの寂しさ、胸の空虚な部分も埋まるものと思っていた。しかし現実は違っていた。
別にトルクの話がつまらないというのではない。ただトルクの会話には何かが欠けていた。
何が原因なのかリガンはここ数日ずっと考えていた。通常であれば一人身であるがため魔剛や盗賊といった連中に気を配らなければならず、このように気を抜くことは出来ない。
しかしながら現在は男であるトルクと一緒のため考えごとをすることが可能であった。しかしそんなトルクのせいで考え事ができ、またトルクのお陰で考え事をすることが出来るというのは皮肉ではあったが。
そして最近になってようやくリガンはトルクとの会話になにが足りないか見つけることが出来た。それは感情、本音がトルクの言葉にはこもっていないのだ。
トルクの回答はいつも一般論や、どごぞで聞いたことがあるような答え方ばかりであり自分に関することとなるといつもはぐらかし答えようとしない。自分の考えを言おうとしないのだ。それこそトルクと始めて会い、勇者の件で感情が爆発した一件以来、トルクの感情は常に平坦である。
そしてトルクの会話は楽しむためというより義務感で話をしているとリガンは感じていた。
そのような人と話をしても楽しい筈がなく、リガンは次第にトルクに話しかけなくなり、今日にいたっては一度も会話をしていない有り様である。
そして旅の間リガンは考え事をするようになった。先ほどのトルクとの会話の件以外にもリガンには考え事があったのだ。何故トルクが勇者を憎んでいるか、という点である。
確かに勇者が魔王を倒したのに、魔剛が暴れだしたせいで一向に街の外へ出歩くことが出来ない。そのことに不満を持っている人は少なからずいる。しかしその人達は不満こそもっていえど憎しみや憎悪といった感情を勇者にぶつけるほどではない。
それ故に何故トルクがあんなに感情的になるほど勇者を憎んでいるかリガンには不思議であった。それにトルクが言った責任という言葉もリガンには気がかりである。勇者のどこに責任があり、まして逃げたというのか、いくら考えても答えは出そうになかった。
トルクとの旅はリガンの寂しさを埋めてくれる物ではなかったが反面良かった点もあった。それは安全である。
トルクは異常に気配に敏感であった。旅の途中二度リガンらは魔剛族に会ったがどれも会う前にトルクが事前に気づいた。魔剛も馬鹿ではなく臨戦態勢に入った人間を襲おうとはせず、二度とも戦闘にはならなかった。
それは夜の時も同様であった。旅の間もっとも危険な時間帯が夜、寝静まる頃である。故に旅人はみな各々のやり方で自分の身を守らなければならない。
今日魔剛の影響でより危険になったエラントでリガンが使っていたのはチッ光と呼ばれる虫であった。




