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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第4章 祭典と凶報と……
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4.31 凶報

「情報がほしいってホント!?」


 キラキラとした目でリガンに話しかけられた獣丸は返事をする。

 あの後、ヤハラと別れたリガンらは獣丸に声をかけたのであった。

 

「えぇだから教えてほしいの、最近の世界エラントのことを」


 リガンはガリー硬貨を手渡す。その量は十分なものであり、獣丸は有り難そうに受けとった。


 ガリー硬貨は人間の通貨であるが故に他人間族には使えないのが常であるが、獣丸族相手には何故だが通用する通貨である。

 獣丸族にとって人間が最大の取り引き相手であることには違いないが、それがガリー硬貨を使える理由なのか真意は定かではない。

 しかし理由はどうであれガリー硬貨が獣丸に使えることは人間たちにとって大いに助かることである。

 

 膝下しかない獣丸との取り引きは一件奇妙に見えるが、双方は対等の立ち位置で話をする。どちらが強いとか弱いとかはないのだ。

 その証拠に身長が何倍も有ろうかというトルク相手に情報屋の獣丸は怯まない。

 そんな獣丸は男の胸に、枯れかかっている一輪の花が刺してあるのに気付いた。


「おっ、兄ちゃん。顔に見会わず花を差してるなんて粋なことするねぇ。けど枯れちゃってるのが残念だけどね。確かその花はアリアドネの花。花言葉は」

「感謝。心から感謝し、その思いを伝えようとする者に与えられる花」


 トルクは胸に差してある、既に枯れ茶色くなったアリアドネの花をちらりと見る。

 トルクの返答に獣丸はそうか知っていたのかと言い、話を流そうとしたが、旅の仲間であるリガンがトルクの言葉に反応した。


「トルク知ってたんですか」


 リガンが驚きトルクの方を見る。

 

 リガンはトルクの胸に着けてある白い花が以前から気になっていた。

 トラルンで恐らく住民から貰ったことは確かで有ろうが、トルクがそこまで大事そうにしているのがリガンにとって意外であったのだ。

 アリアドネの花言葉は感謝であり、リガンは本でその事を知ってはいたが、トルクはそんな花言葉など知らずに刺しているのだろうと勝手に思い込んでいた。

 しかし、そんなリガンの反応をトルクは受け流した。


「今はその話は関係ない。それより何か最近変わったことはないか、例えば勇者の事とか」


 トルクは花から本題へと話を変える。そしてその肝心の本題が獣丸の情報の中にあった。


「勇者?それっぽい噂ならあるよ」

「ホント!」


 より一層明るい表情で、リガンはしゃがみこみ獣丸の声をより聞こえやすくしようとする。

 女の子の顔が突如として近づいたことに、少しばかり獣丸は体を後ろに退いたが、すぐに立て直すと話を続ける。


「まだ確定した情報じゃないけど人々を襲う魔剛を殺して、救っている人間がいるらしいよ。何でも噂によると火を出す剣を使うとか」

「火を出す剣!それって勇者」

「勇者じゃない」


 立ち上がり喜びの声を上げるリガンを制するかのようにトルクの声が重なる。そしてリガンは頬を膨らませトルクの方を向いた。


「ちょっとトルク、勇者じゃないってどういうこと」


 ぬか喜びする羽目となったリガンはトルクにその理由を尋ねる。そんなリガンを無表情のままトルクは見つめ、口を開いた。


「その言葉通りだ。その人は片手がなかっただろ」

「ん、確かにその人物は片手、右手がなかったけど」


 獣丸に聞く前に、見事その人物の特徴を言い当てるトルクである。見事言い当てたトルクにリガンは目を見開いた。


「その人の事を知っているの」

「知っているさ。それにリガンの言う勇者は両腕ともあるだろ」


 トルクは指摘する。

 しかしリガンの言う勇者、トレンはリガンと別れた後も魔王を倒しに旅をしている。

 その為リガンにとって考えたくはないが旅の途中でトレンが片腕を失ったという可能性もあるのだ。

 当然リガンはその事を指摘した。


「けどトルク、私と別れてから勇者が旅の途中で片腕を失ったということもあ」

「そんな事はない!」


 リガンの言葉を遮るような、トルクの突然の大声にその場にいたリガンと獣丸は動きを止める。トルクがそんな大声を発するのを聞いたのは、リガンは初めてであった。

 気を取り直したのか、言い終わった後、直ぐに冷静になったトルクは二人に謝罪する。


「すまない大声を出して、けど本当にあの人が勇者ということはないんだ」


 辛うじて作ったような笑みをトルクはこぼす。

 しかしその笑みは傍目から見ればひきつっているものである。

 それを見たリガンは、何とも言いがたい悲しい気分に陥られていたのだが、それと同時に彼を怪しむ瞳を送ったのは言うまでもない。


「その話題の他に何か変わったことはないか」


 リガンがそんなトルクの笑みに捕らわれている間、トルクは獣丸に尋ねる。

 先程の大声に驚いていたのは獣丸も同じであったが、大声を発した本人に尋ねられた事に気づき、獣丸は彼の方を改まって向く。


「ん、えっとそうだね……そうだあれがあったトラルン集落の話が」

「トラルン……?」


 トラルンという単語が出たとき、リガンが獣丸の方へ顔を向ける。

 その顔は何か恐ろしい考えに取りつかれたような、怯えている表情である。


「いや……その話題はいい」

「いや、続けてください」


 トルクも何かの思いに取りつかれたか話題を変えようとする。しかしそれに反対して、リガンが獣丸に続きを促した。


「獣丸その続きを喋るな」

「トルク!私は聞きたいんです。獣丸さん続けてください」


 リガンの熱意とも言うべきか、それに押されトルクは黙る。しかしその顔は険しいものであった。そしてそれはリガンも同じある。もっとも抱いている感情は違うものであったが。


「続けていいの?」

「えぇ、続けてください」


 獣丸の確認にリガンが答える。

 獣丸にとっては金を渡された女の子の方が、男の方より立場が上であった。故にこの時獣丸はリガンの頼みを優先した。

 この時のリガンはトルクのあの言葉を思い出していた。

 君はもう少し責任を持った方がいい、マリエルでトルクに言われた言葉が、今頃になって思い出される。


 責任、その言葉をリガンは意識したことはない。しかしその言葉をリガンは思い知ることとなった。


「トラルン集落の住民は全員何者かに殺されたんだよ、報告によると現場はかなり悲惨らしいよ」


 その話にリガンは言葉を失う。リガンの唇、顔は共に蒼白となっていく。

 リガンに取っては信じたくはない内容であり、同時に残酷過ぎる結末であった。

 そしてその話の内容に呼応するかのように、トルクの胸に差してあった花が根元から折れ、地面へと散っていった。

 

 

第4章完です。

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