1.9 不穏な旅立ち
何故トルクはそんな表情をするのだろうか。リガンは疑問に感じる。
トルクにとってマリエルが目的地であると知られるのは、不味いことなのか。
リガンは抱いた疑問を解消するために質問しようとした、しかしながら会話の先手を取ったのはリガンではなくトルクであった。
「君はどうしてマリエルに行くんだ」
トルクが先ほどの話題を逸らそうとしたのは明らかであった。いや明らかというより露骨である。自分ではなく相手に話させるよう仕向けるのは、自分が話したくない話題だからだ。
それだけ切羽詰まっているってことか、リガンはそう考えた。しかしどうしてトルクがそこまで隠したがるのか、その理由は以前として分からない。
取り敢えずリガンは答えることにした。トルクの質問に答えない限り先へは進めないと考えたからである。
「マリエルに勇者がいるからです、まぁ100%いるって確証がある訳じゃないですが」
「勇者を探しているのか」
この時、トルクの瞳には相手を疑うような暗い光が宿っていることにリガンは気づいた。まさかこれなのか。リガンは意外に感じつつも先へ進むことにした。
「はい、勇者を探しているんです。どうしても言いたいことがあるから」
「勇者に言う?何を。ありがとうでも言うつもりか」
今度のはあからさますぎである。明らかにトルクの声音には悪意がこもっていていた。
それはリガンが確信するのに十分過ぎるものであった。トルクは勇者を憎んでいるという確信に。
それこそトルクが感情に身を任せ喋ってしまうぐらい憎んでいる事に。
彼の表情の変化の理由と共に、トルクの目的も分かった。彼もまた勇者を探しているのだ。
何故ならリガンが勇者のことを話した時、トルクは驚こうとはしなかった。普通なら驚く筈なのだ、マリエルに勇者がいるなんて話を聞けば。
驚かない、ということは以前聞いたことがあるからだ。そして今や情報源は獣丸族しかいない。
尋ねたのだトルクは、獣丸に勇者の居所を。
トルクの目的は勇者であり、そして重要なことだが彼は勇者を憎んでいる。しかしその理由が分からない。
しかしながらリガンにとってそのことはどうでもいいことであった。
彼は勇者を憎んでいる、あんなにすばらしい人を。リガンは持ち前のお人好しでトルクに伝えようとした。貴方が憎んでいる勇者は憎まれるようなことをするする人ではないと。
「はい、私は彼にありがとうって言いたくて旅をしてるんです。勇者は優しくて、それこそ人に恨まれるようなことはしません」
「君の言い方はまるで勇者を知っているかのような口振りだな。会ったことあるのか」
リガンは答えようとした。勇者達に助けてもらい少しの間だが一緒に彼らと旅をしたことを。
しかしそれは少し考えれば出来ないことだと分かるものだった。もしトルクがその事を知ったら何をしでかすか分かったものではないからだ。
リガンは、今日始めて会ったトルクのことをそこまで信用することは出来なかった。
「いえ会ったことはありません。けれど彼は魔王から、この世界エラントを救ってくださいました。それだけで十分です」
しかしこの瞬間、トルクの感情が爆発した。別人だと思われる程に。
「助けた?結果はどうなった!奴は、勇者は逃げたんだ、己の責任から!」
リガンはその豹変具合に腰を抜かし驚くと同時に、トルクの言っている意味を理解することが出来なかった。
(結果?結果勇者は世界を救った。責任?勇者に何の責任があるというのか)
そうこう考えている内にトルクは冷静になったようである。彼の声音と態度は落ち着いた物となっていた。
「すまない。少しばかり熱くなりすぎた。さっきのことは忘れてくれ」
そう言われてもあの光景を忘れることなど出来るはずがない。
果たしてこの人と旅に出て大丈夫なのだろうか、リガンはそう思わずにはいられなかった。
リガンとトルク、二人の旅は不吉な予感を感じさせるものであった。
これにて第1章完結です。
次の第2章から本格的に物語が始まるのでご期待下さい。




