4.30 終わり行く祭
「いい踊りだったぞ二人とも」
広場にいた者達が四散していく中、トルクとリガンは広場中央のバーに戻っている。
そしてそこには、テストが席に座ったまま二人を待っていた。
「そうだったか、自分で言うのもなんだが随分拙いと思ったが」
トルクの言葉にテストは首を振る。
「いいや、いい踊りだった。見ている者が楽しくなるかのような踊りだった」
それを言われ、リガンは照れ臭かったのか頬を赤らめ体を捻る。一方のトルクは目を細める。
そんな二人の反応を見終わると、テストは椅子から腰を上げた。
「それじゃおじさんは行くよ」
「飲みに誘ってくれてありがとう、お陰でいい気分になれた」
「私も、今日楽しい思いを味わうことが出来ました。ありがとうございます」
トルクとリガンはそれぞれにテストと別れの握手をする。この時のテストの握力は、出会った時にリガンの腕を掴んだ時とは、比べ物にならないほど加減されていた。
「それじゃあ元気でな、もし次会うことが会ったのならまた酒を飲もう」
「ええ、是非また一緒に」
去っていくテストをリガンは手を降り、トルクは何もせずただ見送る。
こうして広場における、この日の宴は終わりを告げたのであった。
所々にある松明による灯りで、夜であるにもかかわらず広場は明るいが、そこにいた筈の者達はほとんど居なくなり、広場は寂しい雰囲気に包まれた。そんな中リガンらもこの祭会場にあるという宿屋を探しに広場から去ろうとする。
そんな二人を背後から呼び止める者がいた。
「リガン・トルク!どうだ楽しめたか」
呼び止めたのはヤハラであった。
この時リガンらは気づいていなかったがヤハラもこの祭の最高責任者でありながら、広場で酒を飲みテリーの踊りも踊っていたのだ。
そして帰ろうとしたところを前方にリガンらを見つけ、声をかけてきたのである。
「えぇ、楽しかったです。それはそうとヤハラさん酒を飲んでいいんですか」
振り返り、立ち止まると楽しかったと言わんばかりの笑顔をリガンはヤハラに向ける。そして貴術族特有の白い肌の顔が赤みを帯びているのを見てリガンはそう尋ねたのであった。
しかしながら、そう言ってる本人であるリガンも今だ酒が抜けておらず、顔は紅いままである。
「そう言うリガンさんだって酒を飲んでんでしょう、顔が紅いですよぉ」
「で、ヤハラ用事はなんだ、冗談を言うために話しかけたのか」
話している最中のリガンとヤハラに突如トルクが割ってはいる。やはりトルクはヤハラの事を好いていないらしい。
そんなトルクの対応にヤハラは嫌な顔ひとつしない。
「相変わらず冷たいなぁトルクは。ただ今後どうするか聞こうとしただけですよ」
正面から衝突することなくやんわりとかわすヤハラである。
ちっ、と舌打ちすると後は任せたと言わんばかりにトルクは体をヤハラから背ける。そして後の会話はリガンが引き継いだ。
「私達は今日ここで止まった後、朝早くにここから出ようと思います」
リガンは答える。ここは街でなく祭りの場であり、屋台などで出される料理こそあるが旅をするための食料は存在しない。その為、祭り会場を物色することなく出ていこうと言うのだ。
また先程のトルクの行動を責める気はリガンにはなかった。それは理性ではなく感情に起因する事である。
「朝早くか、昼間のカラカラ砂漠は暑いからね。名残おしいが君達とはここでお別れのようだね」
「ヤハラは朝早く起きないんですか」
「僕は明日昼過ぎまでたっぷり眠っているさ」
さすがこの祭に選ばれるだけの者である。ヤハラは責任者でもあるが同時に参加者として祭を楽しんでいた。
リガン達が一日しか祭を味あわないことに少しばかり主催者側としてヤハラは残念に思ったが、最高責任者が参加者を引き止める発言をする訳にもいかず、ここは見送ることにした。
それに先ずこれ以上ここにいたいと思わせる祭を仕上げられなかった自分の力量不足でもあるのだ。
等をリガンが知らずうちに考えるヤハラであったが、リガン達が旅人だということを思い出すと、話の最後にある話題を付け加える。
「そうそういい忘れる所だったけど、明日朝早く旅立つならその前に獣丸に会っておくといい。旅人に情報は付き物だからね」
「獣丸がいるのですか」
「いるもなにもほら、後ろにいるよ」
ヤハラが後ろに振り返り指差す先には、去っていく者達に必死に情報を売ろうとする獣丸の姿があった。




