4.29 眩しき笑顔
「君、やっぱりまだ酔っているだろ」
「酔っていませんって、それにもし酔っていたとしても踊り回ることで覚ますことができるでしょう?」
トルクの手を引っ張り、リガンは広場のテーブルとテーブルのわずかながらに開いた空間まで行き、彼から手を離した。
実際その時のリガンは口調ははっきりするものの酔っていることにかわりなく、楽観的気分に浸っていた。しかし、リガンはそうだとしてもトルクは何時もながらの冷静さである。
この時も冷静に意見を申し出た。
「それに踊るといっても僕はテリーの踊りなるものを知らない」
「テリーの踊りなら皆今踊っているじゃないですか」
リガンは両手を広げくるくると回る。楽観気分ここに極めりである。そんなリガンに釣られトルクも辺りを見る。
石同士がぶつかり合うことで奏でられる、陽気で活発な音楽に合わせ、貴術・魔岩が踊っている。
テリーの踊りは二人一組で行うものであり、両者は互いに手を合わせ踊るのであるが、素人目のトルクから見れば、分かるのはそれぐらいであり、足の運びや体全体の動きの仕方など分かるはずもない。
「僕が言っているのは踊りのやり方だ、知識の方じゃない」
「それなら大丈夫ですよ、私が上手くサポートしますから」
リガンがトルクに手を差し伸ばす。か細い少女の手がそこにはあった。しかしトルクはその手を握り返さない。
「そもそも何故、僕が君の踊りに付き合わなければならないんだ。そんな義理はないはずだ」
「義理ならありますよ、だって今日一日素直に祝われると約束したじゃないですか」
もう12時を回ったんだから、その約束は無効だ。等を言うほどトルクは野暮でなない。
しかしだからといって嫌な事にかわりない。今だに渋るトルクをリガンは焦れったく感じたのか、口を尖らせる。
「もう、トルク少し回りを見てください。皆楽しんでいるでしょ。ここのテリーの踊りはそういう踊りなんです。少し位間違っても誰も咎めませんよ」
そう言うとリガンは垂れ下がっているトルクの両手を無理矢理掴む。
「だから背一杯踊りましょう」
「ちょっ、ちょっと君」
戸惑うトルクを置いてきぼりするかのような、デタラメな踊りをリガンはしだした。
両手を掴まれ、相方であるリガンが踊り始めた以上、ここは躍りが終わるまで付き合うことだけがトルクに残された道となる。
その為、トルクはリガンの両手を振り払う訳にもいかず、一緒に酔っぱらったリガンのデタラメな躍りに合わせる羽目となった。
最初こそ、拙い動きでトルクは楽しむことなど出来そうになかったが、リガンの躍りに整合性が増していくに従い、トルクも彼女の躍りに合わせるようになり、次第にコツが分かっていく。
すると拙いことに代わりはないが踊りの格好へとなっていき、トルクにも余裕が生まれ始める。
余裕が生まれれば感情が入る隙が生まれる。この時トルクは不器用ながらも踊りを楽しむかのような晴れやかな表情をしていた。
それを見たリガンも笑顔となり、より生き生きとした躍りへと変わっていく。
リガンとトルクはそんな格好で時間を忘れ、二人で踊り続けた。
まだ踊りたい、両者共にそう思っただろが、大きな鈍い音がなった後音楽が止まった。
その音はテリーの踊りが終わった事の合図であり、貴術や魔岩は踊りを止めていた。
こうした状況下の中で踊り続ける訳にもいかず、リガンらは名残おしいかのように手をゆっくりと離し、踊るのを止める。
「終わったな……」
「終わっちゃいましたね……」
そんなどこか初々しさを感じさせる会話をするリガンとトルクであったが、そんな二人がいる広場の状況は一変した。
広場の端から5本の白い筋が上空へと向って飛んでいく。リガンらは飛んでいく白い筋に気づき空を見上げた。やがて広場中央の上空にて5本の筋が爆発音を鳴り響かせて衝突した。
そして爆発音の後に降ってきたのは非常に細かな氷の粒である。
ひらひらと舞い落ちる氷の一粒一粒が光を反射させ、キラキラと光り輝く。広場は幻想的な雰囲気に包まれた。
「綺麗……」
思わずそう呟くリガンの脳裏には、マリエルにてトルクに助けられた事を思い出していた。
あの時トルクは白剣からの氷魔術で、宙に漂っていたメガトリ粉を凍らせ、このような氷の景色を作り出していた。その時見た景色とこの光景はどことなく似ているとリガンは思ったのだ。
「ありがとうトルク」
「ありがとう?踊った事をか」
自然とリガンから言葉が溢れる。
その言葉にトルクが尋ね返す。トルクの答えはリガンにとって半分は正解であったが、もう半分は不正解であった。
リガンは両手を後ろに組んで上目遣いでトルクを見る。
「それもあるけど……けど本当にありがとう、これからもよろしくね」
言葉と共に思いっきりの笑顔でリガンはトルクに微笑んだ。
その笑顔と舞い落ち輝く氷の粒による相乗作用で、トルクからリガンがどのように見えたか、それはトルク一人しか分からない。
ただそんなリガンの笑顔を向けられたとき、トルクは儚げな顔をしていた。それだけは周囲からも分かる事実であった。




