4.28 心踊る踊り
トルクは呟くのと同時にリガンの眠っている頭から手を離す。
その瞬間まるで石と石とを叩きあったかのような鈍くもありそして甲高さも混じった大音が、トルクらのいる広場全体に鳴り響く。
その音に起こされ、酔い潰れカウンターに突っ伏していたテスト・リガン両名は起き上がった。
「なんですかこの音は、煩いんだけど」
起きて早々、耳を押さえ苦言を放つリガンである。この時リガンは酔っている為普段よりも口調が少々キツイ物となっていた。
嫌々起こされたという風貌のリガンとは異なり、テストはまるで心地よい朝かのように伸びをして起き上がった。
「もう、12時か。テリーの踊り音がこんなに鳴り響いてやがる」
「テリーの踊り音、これがですか」
相も変わらず耳を押さえつつ、リガンは口を開く。
当然ながらトルクは貴術や魔岩の事に詳しくないので、リガンに尋ねる。
「この音が何の物なのか知っているのか」
「知っているといえばそうなるのかな。テリーの踊りは貴術や魔岩共通の踊りで、私が貴術の村にいたときは木管によって奏でられる安らかな音楽と、厳かな踊りで、どっちかと言えば、上品な感じなんですけど。何でそんなテリーの踊りがこんなに騒がしいんですか~」
耳を塞ぎ、早く止んでくれといった様相のリガンである。
そんなリガンをテストはグラスに残っていた酒を飲みながら笑っていた。
「嬢ちゃん、それはこれが魔岩によるテリーの踊りだからさ」
「魔岩による?」
リガンは耳を押さえながら頭を傾げテストの方を見る。
「ほら、あそこだそこ、あそこの席」
テストが指差した方をトルクとリガンは見る。
テストが指差す先のテーブルには魔岩族四人組が座っており、それぞれが石で出来た棒で、これまた石で出来ていたテーブルや椅子等を叩き音楽を奏でていた。
その人達にリガンは見覚えがあった。ここのカウンター席に向かう際、通りすぎたテーブルにいた人達であったからだ。石の棍棒は音を奏でる為の道具だったのである。
「魔岩のテリーの踊りの音楽はあぁやって石を使って音を奏でるんだ。その為貴術のとは違いかなり騒がしい感じなんだけどね」
「そしてここでは、今日の祭りの終わりを示す合図となるんだよ」
テストの後にマルトが続くと、テストやトルク、リガンらが飲んでいたグラスを回収し始める。
「ちょっと待ってくれよマルトちゃん、おじさんもう少し、いやあと一杯だけでいいから飲ませてくれよ」
「駄目です、飲みたいなら明日また来てくださいよ」
マルトは小さな手で器用に三つのグラスを回収するとそそくさとバーの奥へと姿を消す。
名残おしいかのようにテストはマルトの後ろ姿を見送った後、リガンの方へと向いた。
「お嬢ちゃん達は明日どうするんだ、また一緒に飲めるか」
「そうはしたいんですけど、私達行かなければならない所があるので」
激しい音楽を聞いた故か、リガンの酔いは覚めかけ、口調が元に戻る。この時のリガンはもう耳を塞ぐのを止めていた。
「そうか、それは残念だ」
名残惜しい顔で、リガンの返答を聞いたテストは残念がる。そんな時、音楽のテンポが早くなりリガンらを除いたこの広場にいる全ての貴術や魔岩が立ち上がった。
何事かと思い、周囲を見渡すリガンにテストが話しかける。
「明日旅立つなら見ていくといい、魔岩のテリーの踊りを」
その言葉を合図にしたかのようにダンっと大きな音がなったかと思うと、広場にいた者達が隣にいる人とペアをくみ、踊り始めた。
その踊りにリガンは見覚えがあった。それは正しく貴術の村で見たテリーの踊りである。しかし違うのはおとなしい感じの貴術の物とは違い、魔岩のは荒々しく踊っているという点であった。
「魔岩のは貴術とは違い、自身の感情を爆発したかのように大袈裟に踊るのが慣わしなんだ。ここでは酔いを覚ますために使われているけどな」
テストの言葉をよそにリガンはその踊りに見いっていた。貴術とは違う趣がそこにはあり、今のリガンにはこちらの方がしょうに合っている気がしたのだ。
「踊りたい……」
ボソッと呟いたリガンにトルクが気づく。
「踊りたい?あれをか」
「えぇ、踊りたい、踊りましょうよ!トルクも一緒に」
そう言うとリガンは無理にトルクの手を引っ張り椅子を蹴り、立ち上がった。




