表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第4章 祭典と凶報と……
106/381

4.27 貴方らしく

「さぁ約束は守ってもらいますよ」


 勝つ誇ったようにリガンは笑みを浮かべる。実際この勝負に勝ったのはリガンであった。

 そんなリガンに対し、トルクは諦めがついたかのように頭を振る。


「まさか本当に飲むとはね……分かった僕の負けだ。素直に祝わられるよ」

「分かりました、盛大に祝いましょう」


 空になったグラスを高々と掲げるリガンである。この時リガンが少しばかり酔っていたのは言うまでもない。

 

 そんな隙を疑ったの如く、バーの奥からマスターが料理が盛られた皿を片手にトルクらの前に現れた。


「私からも祝わせてください」


 マスターが出した料理は貴術族が誕生の祝いの日に出す料理、クラストトーリであった。

 トーリ草と呼ばれる鮮やかな黄緑色をした野菜の中央にクラストの実と呼ばれる丸く赤色の貴重な果物を添えたクラストトーリは誕生日に出される料理であり、主役がクラストの実を食べ、残りのトーリ草は皆で食べあい、主役がこの世に誕生した日を共に祝う。そんな記念すべき料理でありリガンも貴術族の村で誕生日を迎えた際、食べさせてもらった料理である。


 勿論人間であるトルクが知るよしもないのでリガンが説明する。


「いや、流石にこれは受け取れない。何も払えていないのにここまでされるわけには」


 説明を聞き終わり、料理の意味を知ったトルクはこの行為を遠慮したが、マスターの微笑がそれを遮る。


「いいんですよ、これはうちのサービスとして常日頃行っているものですから。それに素直に祝われることにしたのでしょう」


 そう言われたら、ぐうの音も出ないというものである。

 そんなマスターの態度にテストは思わず自身の太ももを叩く。


「さすが、俺の幼馴染み。気がきくねぇ」

「流石私の幼馴染み、酒しか脳がない」


 そんな会話がなされた後、テストとマスターが二人揃って笑いだし、それにつられこの場にいた皆が笑いだす。その中にはトルクもおり、口元に手を当て苦笑するように笑っていた。その事により場がより柔らかな雰囲気になったのは言うまでもない。


 その後行ったトルクの誕生日の祝い事はそれは賑やかであった。

 マスターは今だ仕事があるので、クラストトーリを置いた後再びバーの奥に消えてしまったが、テストやトルク、マルトの他にリガンも本格的に座談に加わり、料理を手にして皆思い思いにトルクを祝い、そして話をし楽しんだ。

 特にリガンに至っては酒に味をしめたのか、幾度もマースト酒をお代わりし、その度に他の者達に心配されたものである。

 そんな賑やかな会がしばらく続き、ようやく皆が落ち着き始めた頃、トルクが傷心に浸る顔をした。


「……皆ありがとな、俺の誕生日なんかを祝ってくれて。本当にありがとう」

「どうしたんですかトルク、貴方らしくもない」

「そうだぜ、いきなりそんなこというなんて酒にでも酔ったか」


 呂律が回りきっていない声でリガンとテストは尋ねる。二人が酔っているのは明らかであり、そしてそのまま姿勢を崩しカウンターに顔をつけた。

 この時トルクの一人称が僕から俺に変わっていたのだか、悲しいことにこの時、リガン・テストともに酔っ払っており、その事に内心気づいていたのは皮肉にもトルクを敵視していたマルトだけであった。


「どうしたんだい、兄ちゃん。いきなりそんなこと言うなんて」


 マルトが酔っている二人に変わって尋ねる。この時のトルクはいつもの無表情とは打って代わり、色んな感情が織り混ざったような、そんな色がついた表情をしていた。


「いや、少し故郷の事を思い出してな。それで少し……感傷的な気持ちになってな」


 トルクは開け放たれた空を見上げる。その空は真っ黒であり、何処にでも見られるような夜の空であった。


「……変か、俺がこんなこと言うなんて」

「い~や、少しも変ではありません、むしろ貴方らしいです」

 

 突然、リガンが話に割り込んで来たので、トルクとマルトはリガンの方を見る。

 当のリガンは起きておらず、紅い顔のままカウンターに突っ伏していた。そんなリガンを確認し、トルクやマルトは顔を見合わせ、微笑する。


「姉ちゃんは元気だね、酔っ払っても変わらない」

「そうだな、確かに旅立ってからこいつは変わってない」


 トルクはリガンの頭に手を伸ばすと、薄橙色の髪の上からやさしく撫でる。リガンの頭を撫でるトルクの手つきはあまりに自然で、それこそ肉親の頭を撫でるかのようであった。そしてトルクが頭を撫でる度にリガンは吐息を洩らす。

 リガンの頭を撫でるトルクの表情は最初こそ明るかったが、次第に思い詰めたような暗い顔になっていく。


「貴方らしいか……」


 トルクはその意味を反芻するかのように呟く。そしてその言葉の内を知るものはこの場にはトルク以外、誰もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ