4.25 大人と少女
リガンには自身の顔が何故暑くなっているか分からなかった。
ここは酒場、酒の香りが周囲に蔓延しており、そこに原因を押し付けるのは酒初心者のリガンならではである。リガンは酒の香りに当てられ少し酔ってしまった為だと考えた。
「そう言えば、君の年をこれまで聞いていなかったな。君は今幾つなんだ」
リガンの顔が赤くなっていることにトルクは突っ込まず、続ける。それをリガンはありがたく感じた。
「私は16歳です。もっとも後一ヶ月もしないうちに17に成りますが」
リガンが後一ヶ月で17に成ると付け加えたのは、ひとえにより自分を大人びて魅せようとする意思からである。
もっともそんな姿勢は他人から見れば逆に可愛く見えるのだが。
「16か、まぁそんくらいだろうな」
トルクは頼んだテットラー酒に手をつけながら答える。そんなトルクを見ていると自身が子供ぽいっと、暗に言われている気がしてならなかった。
「何ですか、私が子供ぽいっていうんですか」
自身の胸に手を置きリガンは答える。そんなリガンにトルクは表情を変えず答えた。
「そうは言っていないが……何か気になる部分でもあるのか」
「いや、気になる部分はないですが、成長していないと困るものですから……」
リガンの思慮のある顔を見て、トルクは何かを悟った。
「別に成長してると思うぞ」
「えっ」
突然のトルクの発言にリガンは驚く。そしてそのままトルクは続ける。
「だから勇者に見せると言い、君の成長した姿を」
そこまで言うとトルクはリガンから顔を背ける。まるで柄にもない台詞を吐いてしまったかのように。
トルクの台詞はリガンの期待していた物ではなかったが、そんなトルクの精一杯と思える励ましをリガンは嬉しく思うのであった。
その後しばらくの間、リガンを交えたトルク、テスト、マルトで座談をしていた。
他人間族であるテストやマルトにしてみれば人間側の話題は面白いものであるし、リガンからしてみても貴術や魔岩側の話題は興味引かれる内容であった。
その間にもテストは無論のことトルクも酒を飲み続けた。
トルクはおかわりを頼まないのだが、隣にいるテストが逐一マスターにトルクの酒追加を頼むのだ。
「テスト、こんなに奢ってもらっては流石に受け取れない。結構かかるだろ」
「いいってことよ、おじさんだって若い連中と酒を飲めて楽しいのさ、だからもっとぐっといこうぜ」
珍しく他人思いな発言をするトルクであるが、テストはそれを受け取らず、トルクに酒を飲ませようとする。
そんなテストを嫌どころかむしろ好意に感じているのか、心なし嬉しそうな顔で、トルクはテットラー酒を飲む。
あんまりも飲むので、リガンはトルクに疑問を抱かずにはいられなかった。
「トルク、そんなにお酒が好きなら何故今まで飲んで来なかったの?」
リガンは尋ねる。実際トルクはもう数えきれないほどの酒を飲んでおり、よほどの酒好きでない限りこんなにも飲めないと思ったからだ。
しかしこれまでの旅の中でトルクが酒を飲んでいる所をリガンはみたことがない。
道中や街や村についた時にも、トルクは水を飲んでいた。
「だって酒は水より金がかかるだろ、マリエルで手に入れたガリー硬貨も無限ではないからな」
トルクとリガンの主な旅の資金源はマリエルでの偽勇者との一件で手に入れたガリー硬貨であり、それはトルクの言うとおり無限ではない。しかしだからといってこんなにも酒を飲む人が数ヵ月も酒を我慢するのだろうか、その疑問に答えるようにトルクは続ける。
「けど、一番の理由は今日が特別な日というのが大きいな」
「特別な日?何か今日ありましたっけ」
リガンは今日の日付を思い出す。今現在人間の暦では12月2日、冬の季節であり最後の月でもあるが12月2日に何があるのかリガンには分からない。
腕をくみ、目をつぶり一生懸命考えるもののいっこうに答えが出ないリガンを見飽きたのか、トルクが答えをいった。
「分からないのも無理ない、だってその特別な日は僕の誕生日だからな」
トルクはそう言うと再び酒に口をつけた。




