4.24 迷信を信じるか、信じないか
「お嬢さん酒飲んだことないのか」
「まだ飲んだことないの!」
テストやマルトが各々のリアクションで反応する。しかしテストやマルトまたトルクが驚くのも無理ない。
酒好きな貴術や魔岩は幼少の頃から嗜んでおり、人間の間にもリガン位の年齢にもなれば経験があるのは当たり前である。
そんなことはリガンも承知していた。
「そ、そうよ!飲んだことありませんよ!それがそんなに可笑しいことですか」
酒の入ったグラスを高々とあげ、リガンは叫ぶ。我慢できずとうとう吹っ切れたのだ。
そんなリガンと引き換え、これまで通りトルクは冷静である。しかしそんなトルクの瞳には呆れたといった成分が少量含まれていた。
「けど、どうして今まで飲まなかったんだ。貴術族の村に居たことがあるなら飲む機会位あったと思うが」
胸に抱くであろう当然の疑問をトルクはぶつける。
しかしながらリガンはその理由を話すのが憚れた。
「えっとですね、それは……」
モジモジし、答えようとしないリガンである。
理由を言いたく無ければ嘘を言えば良いものを、リガンはしなかった。もっともそういう率直な所がリガンの良いところなのだが。
そんなリガンを見て、答えを思いついたかトルクが口を開く。
「君もしかして、あの迷信を信じているのか」
あの迷信、そうトルクが口を開いた時、リガンの視線が横にずれる。図星であった。
「なんですか、その迷信ってのは」
マルトがトルクに尋ねる。広語を習得しているマルトではあるが、人間社会の習慣としての知識はどうしても欠けてしまいがちである。
そしてテストもまたその迷信を知らなかった。
「人間の間に伝わるバカな話です。酒は二十代になるまえの子供が飲むと天罰が下るというそんな話です」
「二十代!そんなになるまで飲んじゃいけないなんておじさん死んじゃうよ」
「テストのおじさんは酒が命だからね」
そんなテストとマルトが各々の反応を示すなか、リガンが口を開く。
「……そうですよ、そんなバカだと言われる迷信を気にかけて今まで飲んでこなかったんですよ私は」
拗ねたように答え、リガンはそっぽを向く。第一リガン自身アホらしい迷信だと思ってもいた。
しかし元のリガンの根は真面目であり、その真面目な気質が邪魔をしていたのだ。
「君は変な所で真面目だな」
そうトルクが評するのも無理ない話である。しかしリガンから言わしてもらえば、十代の身でありながら酒を飲むなどそれこそ変である。
「私から言わせてもらえば、十代でありながら酒を飲むトルクが信じられないですよ」
捨て台詞の如く、ぶっきらぼうにリガンは吐くが、帰ってきたのは意外な返答であった。
「ん?僕は十代じゃなく、二十いってるぞ」
「……えっ」
「いや、僕はもう二十いってる」
「えぇぇ!」
リガンは思わず、席から立ち上がった。
それは真に驚くべきことである。何故なら今まで自分と同じくらいと勝手に思っていた相手が、普通に年上であったからだ。
16歳のリガンにとって二十代というのはもう大人であり、トルクがそこまでの年齢だとは思えなかったからだ。
「じゃ、じゃあトルクは今何歳なんですか」
「丁度20」
トルクの年齢を知り、力が抜けたか、リガンは席に座り直す。
「20歳か、おじさんもそんな頃があったな」
「おじさんはどうせ、酒ばかり飲んでたでしょ」
そんなテストやマルトのやり取りをリガンは聞き流す。
リガンは今これまでの旅を思いだし、そこでトルクに対し行われた数々の無礼を思い出していた。
根が真面目なリガンは年上相手には敬意を払ってきた。それが自身より4歳年上だとは知らずにトルクにはため口、批難等をしてしまったのだ。
これは恥ずべき行為であり、申し訳ない気分にリガンは浸る。
「すみませんでした。そんな……年上だとは知らずにため口なんかきいちゃって」
頭を下げリガンは否定しようとしたが、それをトルクは掌を見せ制す。
「いいよ、別に……やっぱり君は面白いな。君みたいな人とは滅多に出会えない」
旅立ちを決めたマリエルで言われた台詞を再び、トルクに言われた。
そして言われたリガンの心うちに湧いたのは、あの時のような喜びとは違う熱いものであった。




