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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第4章 祭典と凶報と……
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4.23 意外な経歴

 結局の所、マルトが翻訳をすることとなり、その旨をトルクに説明する。

 先程の一連の会話は貴術語で行われた物であり、トルクにはさっぱりであったからだ。

 

「そうか、分かったこちらからも宜しく頼む」


 トルクはカウンター越しに手を伸ばし、握手を求める。

 それにマルトは答え、手を伸ばし握手する。

 しかしながらそんなマルトの内心はおだやではない。トルクに嫉妬していたからだ。綺麗なお姉さんことリガンの隣に座っていることに穏やかな気持ちにはなれなかったのだ。

 しかしながらリガンに任された以上、嫌いなトルクでもしっかり翻訳するとマルトは決心していた。その部分においてもマルトが非凡と言える証でもある。


「じゃあ言葉の問題も解決したことだし、酒のつまみとしてあんたらの話を聞こうじゃないか」


 テストは酒を再び頼みやって来た酒を一口飲んだ後、トルクとの約束だった話題を求める。


「何が聞きたい、出来る限り答えるが」


 トルクもまた酒を頼み、やって来た酒を同じく一口飲んだ。テストとは違いトルクの顔色は今だ紅くない。


「全部だ全部。あんたらの旅してる理由や、ここまでの道のりを教えてくれ」

「それならいいぞ、少し長くなると思うがな」


 テストの頼みによってトルクは話し始めた。旅の目的が勇者であること。自分とリガンとは別々に旅立った仲で、道中出会い利害の一致から一緒に旅をするようになったこと。そしてマリエルでの偽勇者での件やトラルンでの戦いの話。そしてここカラカラ砂漠での話を。


 貴術・魔岩族には勇者という言葉は通じず、英雄と呼ばなければ話をは通じないと、リガンはトルクにそこだけを言い後は黙っていた。

 またトルクが話す内容は客観性を保っており、リガンにとって不満な部分はない。

 またエラントという地名は種族間で共通だが、それ以外の地名や世界エラントの地方分割の仕方などは種族によって異なるため、その部分をマルトが正しく翻訳出来るか心配ではあったが、人間の地方を貴術の地方に正しく翻訳出来ており、リガンが口を挟む必要はなかった。

 

 そうなると問題となるのはリガンがここにいる理由である。

 リガンはもとはと言えばトルクの翻訳係として来ていたはずであった。

 それが今はマルトがその任につき、リガンは手持ちぶさたになる。

 別に役目を取られた事が不満なのではない。只自分が何故ここにいるのか、ふと覚めてしまったのだ。

 リガンの目の前にはグラスがあり、そこには今だマースト酒から酸味漂う香りを放っており己の存在感を示していた。

 そんなリガンを尻目にテストとトルクの会話は華がさき酒を挟みながら盛り上がりを見せている。

 そんな二人を見るとますます自分がいる理由が分からなくなる。


 出来ることならここから離れ早く寝たかった。しかしそれはリガンには出来なかった。せっかく奢ってくれた物に手をつけず、この場を離れるなど。トルクなら奢ってもらった責任うんねんで離れないだろうが、リガンは感情の部分が邪魔をしていた。

 その為リガンがこの場から離れるには、せめて出されたマースト酒を飲まなければならない。

 しかし……そんな問答を繰り返し今だ酒には手をつけられないリガンである。


「君、さっきから動かないがどうした具合が悪いのか」


 リガンが気がついた時、トルクが彼女の顔を覗き込んでいた。

 いや、トルクだけではない。テストも目の前にいるマルトも心配そうに見守っていた。


「い、いや、気分は良いですよ。気分は」


 胸の前で両手を振り、リガンは否定する。


「けどねぇちゃんさっきからちょくちょく見てたけど、酒を見詰めたままずっと動いてなかったよ。どうしたの」


 リガンに対してはやたらと丁寧な口調のマルトである。


「どうした、マースト酒が気に入らなかったか」


 トルクを挟んだ向こうからテストが赤き顔を覗かせる。

 皆がリガンの事を心配し出した。そんな現状にリガンは申し訳ない気持ちとなる。


「い、いえそんなことは」


 リガンは何事もないかのように答えた。

 奢りで出してもらった物を否定するなんて、リガンにとっては出来るわけがないことだからだ。

 リガンはグラスを掴み、口元に運ぶ。しかし結局の所酒はリガンの口に入ることはなかった。

 リガンが口元付近でグラスを止めたからだ。その時のリガンの顔は険しいものであった。


「君ひょっとして……酒飲めないのか?」


 訝しげな表情でトルクが疑問をリガンに投げ掛ける。それにリガンは首を振る。


「違います、飲めない訳じゃないです」


 リガンはグラスを置き、意気地な様子で否定する。しかしそうは言っても行動が伴っていない。トルクの追及は続く。


「じゃあ何故飲めないんだ。まさか香りが好みじゃないとか言うんじゃないよな」 

「違います、香りは確かに酒って感じですが嫌いじゃないです」

「酒って感じ?」


 リガンの台詞に違和感を覚えたのかトルクの顔が曇る。

 そしてトルクは隣のリガンに指差して、尋ねた。


「その口調……君酒をこれまで飲んだことないな」


 ギクッ、と顔を強ばらせるリガン。

 トルクの指摘に直ぐに返答できず、リガンは言葉を詰まらせた。

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