1.8 無知なる怖れ
過去話兼説明回です。新たな種族が登場しますが受け入れてくれたらなと思います。
数日前ラスルト地方のとある村、リガンは獣丸族に出会う機会があった。
獣丸族は身長が30cm程の小さな種族である。体正面は毛むくじゃらで柔らかそうな印象を受けるが、一転背中は厚く、硬い鱗のような物が生えており前と後ろとでは正反対の印象を受けるだろう。
彼らは外敵に会ったとき柔らかいお腹を守るため、お腹を内側にし体を丸め、鋼鉄の硬さである背中だけを外部に晒すことで外敵から身を守るのだ。
そしてそのような姿から人間達は彼らの事を獣丸族と呼ぶようになった。
しかしもし人間達が彼らのことをより深く知れば、きっとそのようには名付けなかっただろう。
彼らは極度の噂好きだったのだ。
彼らはどこからともなく情報を仕入れてきた。それこそ異常なまでの速さと正確さを伴って。
その凄さは一時期人間社会の連絡網として正式に獣丸族を雇おうとする動きを起こす程であった。
しかしそこまでの能力を有していながら当時、獣丸と人間は相容れなかった。
平和な時代、人間と他人間族との仲は良好ではなく、また人々は情報に貪欲ではなかった。それこそ週に何回か来る旅人や商人、隣り街からの役人の話だけで十分であったのだ。
しかしそれは情報が入るのが当たり前であったからである。
人間社会の中心地であった都市キリヤルが魔王の手に落ちた時、人間社会は混乱し、真実か虚偽が分からぬ情報に呑まれることとなった。そして人々は思い知ったのだ、情報の重要性を、有益性を。
それ以来獣丸族は人間と最も仲のよい種族となり、日々情報を提供してくれている。そしてその代わりとして人間は物質を提供した。その関係は魔王亡き今でも変わることはない。
魔王亡き後、旅を再開しようとした旅人や商人は断念せざるを得なかった。
何故なら魔王と同族であり配下でもあった魔剛がエラント全土に蔓延るようになったからだ。そのため街同士の繋がりもたたれたままであり、何もかも分からずじまいのまま日々を過ごす羽目となった。
人々は不安に陥った。魔王が倒されたのは魔剛族から聞いた、じゃあ、他は。この時、人間達は隣り街の状態でさえ知らない有り様である。
そして壊れた人間社会も治ることなかった。そのため人間達は獣丸族に頼るしかなかった、情報を得るために。安心感を得るために。
今人々の情報源は獣丸族だけである。
旅をして早一ヶ月。勇者に関する情報は手に入らず、少しばかりリガンは焦っていた。確かに簡単には会えない、そう覚悟してきたつもりだった。
しかしこうも勇者に関する情報がないとは予想外である。
そろそろ別の地方へ行くべきであろうか、そう考えていた頃である。
ある街でリガンは獣丸に出会った。
全ての街、村に獣丸が居るわけではない。実際旅立ってから獣丸を見たのはそれが初めてであった。
獣丸族なら知っているのかな、そんな淡い気持ちでリガンは尋ねた。
獣丸族は人間の言語である広語を喋る事が出来る。その為、この時の会話も、彼らの言語ではなく、人間の言語で行われた。
そして初めて会った獣丸から得られた内容、結果は想像以上であった。なんと近くの街マリエルに勇者がいるというのである。
その時のリガンの驚きよう、喜びようといったらなかった。
そして旅の準備をしたのち、直ぐリガンはマリエルへ向けて旅に出たのであった。




