0.0 純白の剣と真紅の剣
本来最終回後におまけ見たいな感じで投稿しようと思いましたが、考えてみると0.1より前の話ですので、最初に投稿した方がいいのではないかと考え直し、この時期に投稿させていただきました。
本内容の立ち位置としてはプロローグのプロローグみたいな話です。
彼は一体何者なのか、その部屋で何が起こったのか、本編を読み進めれば分かっていただけれると思います。
ーE.W 528年7月15日ー
少量の光に対し、多量の暗闇が存在する部屋の中に男がいた。
顔の右半面はどす黒い血で覆われ、右肩から先がない片腕の男が部屋の中央にたっている。
光差し込む場所なら、そんな姿の彼は誰よりも目立つ事だろう。しかしここは黒が支配する場所、その程度の事は目立つ内の範疇ではない。
しかしそんな彼だが、この部屋の中で一際存在感を放っていた。無論その外見のせいではない。彼が持つ剣が目立っていたのだ。
彼の残っている片腕、左手に握られた剣は穢れを知らぬ初雪のように純白なる光を纏っている。
この暗闇が支配する部屋の中で、眩しく光るその剣は一際存在感を放っていた。
そしてそんな彼の眼下には男が一人倒れていた。
筋骨隆々の、獣のような鋭い目と深くかくばった顔立ちをしていた男が、片腕の男を前にして倒れている。男からはもう生命の吐息は感じられない。
男の肩から脇腹まで、深い刀傷が走っている。それが致命症であるのはいうまでもない事であった。
しかしそんな男もまた純白なる剣をもった男と同様、暗闇漂うこの部屋で目立っていた。
それは何故か、倒れている男の腹には一本の剣が突き刺さっていたからだ。
その剣はまるで灼熱の太陽を思わせるが如く、真紅の光を放っていた。
その剣が男の腹に突き刺さったまま直立していたのである。
純白なる剣と真紅なる剣、対称的な二本がこの場にはあった。
純白なる剣を手にしていた彼は、倒れていた男を一瞥した後、男に突き刺さっている真紅の剣に目を移す。
そして自身の左手にある純白の剣を、これまた右腰にある白き鞘に納めた。
そしてゆったりとした動作で一歩踏み込むと、残っている腕ひとつで男の腹に突き刺さった真紅の剣を引き抜こうとする。
引き抜かれている間、命の灯火が消えた男は無反応である。
ズブズブと不快な音をたて、彼は真紅の剣を引き抜いた。
真紅の剣の表面にはその輝きを汚すように赤黒い血がこびりついていた。
引き抜いた彼はそんな剣を一振りし、剣にかかっていた血を吹き飛ばす。そして純白の剣と同じく、左腰にかけられている紅い鞘に真紅の剣を納めた。
純白の剣と真紅の剣、二本を所持している片腕の男は、真紅の剣を納めた後、すぐに歩き出した。
しかしそんな彼の足取りは危なげなく、ふらふらとしている。
気力が無いのは明らかであった。
しかしそれでも彼は足を止めることなく歩いた。ここではない何処かへ向かって。
そのまま彼は行方をたった。
彼が今何処にいるのか誰も知らない。
それは一年たった今でも変わらない事実であった。