第十一話 作戦準備
表の作戦
上空2000m、雲と見間違える程白い物体が浮かんでいた。
「艦長、目的地まで20kmです。」
「風速は南南西に2m/s、着艦可能です。」
「両舷半速、トリム-5度」
それは白く不思議な形をした飛行船だった。
環境調査用飛行船AM-1
書類上の名称はこうなっているが軍事目的で設計された艦である。飛行船の軍事転用は第一次世界大戦のドイツが活用したぐらいだが近年、再び光が当てられた。「COSH(Control of Static Heaviness、静的重量コントロール)」が可能になったこの飛行船は100tもの積載を可能にしている。元になったのは環境調査に使われる飛行船AM-1で外見は一目みただけでは判別がつかないが微妙に違うところもある。もっともアンテナが一、二個増えた程度の違いでしかない。そしてこの飛行船の大きな特徴は上部が開き平らな甲板が姿を現す。ここからヘリやドローンを離発着することが可能だ。ただ偽装した飛行船のため収容量はない、が代わりにミサイルにも耐えられる複合装甲を採用している。また、全長165mの図体のわりに時速170kmまでだすことができる。環境調査目的の飛行船、その実態は極小スパイドローンを運用するためにつくられたものだ。無論、様々な制限もある。ヘリの離発着は上空1000m以下、積み荷を満載した状態での着艦不可、安全上のトリム制限などである。
この次世代飛行船は異変前に計画していた作戦に投入する予定だったが、異変後は待機が続いていた。その待機命令が解除され、異世界初の作戦に実践投入されることになるとは当時の乗員は思いもしなかった。
飛行場に着き、艦長らが食堂で休憩をとっていると作業服を着た男が乗り込んできたと思えば艦長を呼んだ。何やら書類を渡し、艦長が読み終わるのを待ってこう言った。
「すいません、食堂はこれから機材等を持ち込むので別の場所で休憩をとってください。」
「わかりました。各乗員は速やかに乗員室に移動し、待機せよ。」
乗員が移動し終わったころ飛行船内に極小スパイドローンを操作する機器が次々に運び込まれた。同時に操作する人員も乗り込んだ。
かくして作戦の準備は整いつつあった。
裏の作戦
潜水艦「伊11」
特殊部隊のために造られたこの艦は魚雷発射管をもたない特殊な潜水艦だ。特殊潜水艇を三隻常備、二隻を追加搭載できる。また、潜水艦の中にはプールやカフェエリアまであり、乗員の長期航海のストレスを軽減する設備も充実している。旧ソ連のタイフーン級より一回りほど小さいものの攻撃原潜に比べはるかに大きい船体をもつ。単艦での運用は想定しておらず護衛に二隻の潜水艦を要する。何より静寂性が異常に高く、最新鋭の伊900型と比べても遜色はない。
そんな潜水艦にある温水プールでプカプカ浮いている人達がいた
「……隊長、ここは天国ですね。」
「一昔前の潜水艦じゃ有り得ないですよ。」
「食事も、空調も、寝室もランクが違いますしね。」
「というより本当に潜水艦に乗っているのか?」
「…お前ら緩みすぎだ。作戦五日前だぞ、気を引き締めろ。」
そんな輝を隊員は茶化す。
「隊長はいいよな~、美人な彼女さんがいて。」
「この潜水艦に乗る前もあってたらしいぞ。」
「け、リア充爆発しろ。」
「…、今度後藤が主催の合コンがあるけどお前らはいかないって言っておくよ。」
「「「すみません、調子に乗りました。行かせてください」」」
(この調子でまとめていくのはきついな)
内心そう思いつつ、どこか諦めた輝であった。