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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

重ねる重なる重なると

作者: 風連

相変わらず、白足しろあしの足取りはまるで行く先の決まってない者の様な歩み方だった。

なだらかな丘の上を、ほうきで履いたような雲が、空に流れているのが見える。

昨夜の嵐の名残りがあちこちに散らばっていた。

折れて飛んできたのであろう、紅い実をつけた枝をまたいだ。

林の中では、隣の木に寄り掛かったようなのも見える。

早瀬の流れは、何時もより音が騒がしく、この先の吊り橋が、心配な白足だった。

木々の中に入れば、さっきから背中を押していた風が何処かに消える。

あちこちに小石や枝が散らばっていたが、気にしてる時間はない。

ひょいひょいとまたぎながら、先を急いだ。

それでも癖で、立ち止まると、辺りをキョロキョロする。

道も右に左にと、グダグダと進むので、急ぐ割には、距離が稼げてない。

やがて、ポッカリと開けた場所に着いた。

幸い吊り橋なので、昨夜の嵐で流されることもなく、何時もの場所に吊るされている。

幾つかの落ち葉が、絡んではいたが、大丈夫そうだった。

白足は、かずらに手をかけ、ユサユサと揺すった。

「、ェ、。」

誰かの声がした、したような気がした。

蔓を握ったまま、辺りを見渡したが、誰もいない。

白足はそうグズグズもしていられないのだ。

吊り橋の上に足を掛け、思い切って渡ることにした。

稲荷の緋玉ひだまは、気が短い。

同じ狐でも、白足とは気性が違いすぎる。

頼まれた物は腰に、風呂敷で縛り付けてある。

もう一度、辺りをキョロキョロと見渡してから、蔓橋かずらばしに、足を掛けた。

半分も行かないうちに、ザーッと風が襲って来た。

橋はまともに風を受けて、しなって悲鳴をあげる。

思わずうずくまった白足のすぐそばで、『、、キッ。』と小さな悲鳴が聞こえた、様な気がした。

蔓にぶら下がる様にしながら、立ち上がり白足は、そっと前に足を出して探ってみた。

何も無い。

あるのは、カサコソと絡まる落ち葉を鳴らす風だけだ。

突風が吹いた。

『、ャッ。』

確かに、今度はすぐそばで、しっかりと聞こえた。

「こっちゃが、こわ。」

白足は、見えないものに、怒鳴ると蔓橋を勢いをつけて、渡り出した。

『、ヒエッ。』

か細い声は、今度は後ろから聞こえた。

白足は、構わず吊り橋を小走りに渡り、向こう岸に着いた。

蔓を握ったまま、振り返った。

だが、白足が幾ら眼を凝らしても、何も見えない。

そして、白足にはかまってる時間が無かった。

「か、風だんべぇーか、、、。」

無理に納得すると、クルリと回り、白足は相変わらずの無駄なチョコマカした歩き方で、先を急いだ。

少し背中を丸めながら二本足で立って、小走りに歩む狐の姿は、腰に巻かれた風呂敷と相まって、何処か滑稽こっけいだったが、本人は至って真面目だった。

吊り橋を抜けて、深い森に入ると、風は木の頭をザワザワと揺らして通り過ぎていった。

クヌギの木の下で、ホッと小休止する。

木のあなに入って休みたいところだが、そうもしていられない。

旨そうなきのこやら山葡萄やらの誘惑を尻目に、白足は急いだ。

風に振り落とされた大きな杉の枝が、道を塞いでいたが、どうにかこうにか乗り越えて、先へ先へと急ぐ。

あの変な声は聞こえ無い。

やはり風の悪戯いたずらだったのだろう。

岩場に出ると、風がピューピューと吹いてる。

腰の風呂敷を境に、背中の毛が頭に向かって、駆け上がって来るようだ。

いじけた草と石がゴロゴロしてる丘だ。

石の陰には風から身を隠した、小さな白い花達が丸い花弁を下に向けて、固まって咲いている。

風は西から、雲を連れて来ていた。

薄く履かれたような雲の後ろから、かたまりの一陣が現れ出している。

風の力におくすることの無いその雲は、腹の辺りを黒く染めていた。

「チッ、嵐の残りンっカスが。」

白足は四つん這いになって、風を避けながら、石だらけの丘を急いだ。

さっきより冷たい風が、耳を駆け抜けて行く。

突風で白い飾り毛が引っ張られて、耳がひっくり返って、ピンと戻った。

思わず頭を引っ込め、身を縮ます。

爪でガッツリと石を掴んで、丘を登るが、ザワザワとした風が冷たさを増している。

丘の天辺てっぺんは、ビュービューと風が吹き荒れ、雲を下に下にと、引きづり下ろし始めていた。

身体を引っ張られながらも、白足はどうにか石の丘を越えた。

丘の陰に入ると、ドッと疲れた。

ペタンと座ると、小休止を取った。

緋玉ひだまは、待っているから良いが、白足は風にあおれて、寒風仕立ての干物になった気分だった。

冷たくなった両耳を、手で覆い暖めたが、冷え切った耳は痛かった。

立ち上がり、鳥居が幾つも立つ長い長い参道の中に、フラフラと入っていった。

風は消え、身体も暖まって来てはいたが、あの雲の塊は、白足に追いつき、黒く空を埋め出していた。

鳥居の列が途切れ、ポッカリと開けた場所に、目的の神殿は、建っている。

扉を叩くと、機嫌の悪い緋狐あかきつねの緋玉が直ぐに顔を出した。

「よし、持って来れたか。」

挨拶もなく、ジロリと睨まれた。

「腰に巻いてきちょる。」

「入れ。」

グイッと引っ張り込まれた途端とたん、バラバラと空から雨が落ちて来た。

腕を掴まれて、そのまま引っ張られている白足は、情けない格好で、奥に連れて行かれた。

廊下は滑るぐらいピカピカで、壁に吊るされている燈明が、乱反射している。

見事な舞台と稲荷大明神いなりだいみょうじんが、まつられているのだ。

「出せ。」

「あ、ハイなっと。」

固結びしたので、少し手間取ったが、腰の荷物を緋玉に渡した。

風呂敷から、サッと緋玉はそれを取り上げた。

白足は風呂敷を荒く丸めると、腰の革紐に引っ掛けたのだった。

「よしよし、ながものが、嵐と嵐の間に来るとの神託しんたくに間違いなかったな。

どうだ、たまには、見て行かないか。」

白足はブンブンと手を振った。

「雨が止めば、帰るっさや−。」

緋玉が先の黒いひげをフンと鳴らした。

「雨はやまんぞ。

あれは明日の昼までダラダラと降る。」

稲荷大明神の御使みつかいをしている緋玉の言葉に、白足はせっかく出した帰りの足を、横から蹴られた気分だった。

「したらば、観るかな。」

緋玉が指差した円座に、チョコンと正座した。

もう、声をかけても緋玉は返答してくれないだろう。

取り出したブヨブヨした物を、和紙を乗せた三方さんぽうに乗せ、うやうやしく掲げると、本尊の前に、持って行った。

そこには、四角い台がこしらえていて、その上に御座ござが引かれ、四方に立った細竹には綱が掛けられ、こちら側の一方だけは、垂れ下がっていた。

台の上には、大根だの芋だの米だのが、大きな白い土器かわらけに、盛られている。

風呂敷から出された白っぽいブヨッとした物を乗せた三方を置くと、こちら側の綱を竹に結わえ直して、その場の結界を閉じた。

緋玉が何やら唱えると、背中の毛が逆立ち、バチバチと電気が走る。

青白くボウっとした光に、緋玉が包まれていく。

祝詞のりとは、眠気を誘うほど長かったが、一声鳴ひとこえなくと、緋狐ひぎつねの尾が3倍にも膨れた。

その鳴き声で、疲れからウトウトと、半寝だった白足の眼が覚めた程だ。

尾が振り下ろされると、神殿の床を鳴らして、雷電らいでんの地走りが竹の元に向かって行く。

あおりをくらって、白足の毛も逆立つ。

流し寄って来た物から、ブスブスと煙が立ち始め、それが消えると、ドン、と言う音と共に、罅割ひびわれが走り、放電されたその下に、白い玉が現れた。

玉はコロコロと自らの身体程の子を産む。

ひと山の白い玉が生まれ落ちた時には、外側の皮の様なブヨッとした部分は消えていた。

祝詞を唱え終えた緋玉は、フゥと、息を吐いた。

見事な玉が百はあるようだ。

「さて、飯にしょう。

これはどのみち、3日は手にする事が出来ないからな。

悪さすると、直ぐにわかるぞ。

何せ、口髭がチリチリにげるからな。」

膨らんだ尾を何度か振って縮めながら、緋玉は、神殿の裏に通じる扉を開けた。

「なんだ、来ないのか。

腹は減ってないのか。」

「イヤ、まて、イヤ。」

かしこまって座っていた白足は足が痺れて、円座から、立とうともがいていた。

滑稽にも、円座の上で背中ごとクルリと回ってしまった。

ジタバタしてみたが、後ろ足が痺れていて力が入らない。

仕方なく、背を丸めてしびれた足を、ガジガジと噛んだ。

「支度はしてある。

出たら左に折れて真っ直ぐ来い。」

そう言い残すと、緋玉は白足を残し、スタスタと先に行ってしまった。

焦げ臭い匂いと、美しい玉の輝きの中、自分の姿に、気分的にかなり落ち込んでる時だった。

「シッ、シーッ。」

あの声だ。

足を噛むのも忘れて、白足は辺りを見渡した。

緋玉がいなくなったら、ここにで声を発する者は、白足しかいない。

神殿にウヨウヨ漂っている形代かたしろ達には、姿も声も無いはずだ。

ピクピクと、白足の耳が前に横にと、動いた。

燈明の明かりだけが、ユラユラと辺りを動かしている。

痺れなぞはとうに何処かに行ってしまった白足は、クルリと身体を起こすと、神殿を抜け、一目散に緋玉の後を追った。

質素ながらも、用意されていた食事は、身体を暖めてくれた。

吊り橋からの変な『音』の話をすると、それは木霊こだまだろう、と一蹴いっしゅうされた。

緋玉と神殿に戻ってみたが、ピッタリと閉ざされていた扉の向こうは、あの御座の上に、白い玉が、輝いているばかりだった。

床をてがわれた白足は、疲れも手伝って、次の日の昼まで、グウスカと寝てしまったのだった。

起きると、緋玉の言の葉が柳の葉に包まれて、フワフワと寝床の側に浮いていた。

手を伸ばして、爪でパチンと割ると、柳の葉は、ユックリと開き、言の葉を外へと落としながら、床に落ちていった。

『起きたか。

寝坊助め。

隣の部屋に、食事があるから、喰ったら帰って良い。

所用が出来た。

今回の礼は、後日だ。』

やれやれと、寝床から降りて、隣の部屋に行くと、神殿の形代の用意した食事があった。

昨夜のは、半分喰った気がしなかったが、緋玉が居ないので、これはゆっくり喰た。

ざるから林檎りんごをひとつ取ると、帰る事にした。

寝床も食事の後片付けも、緋玉の作り出した神殿の形代が、やってしまうだ。

昨夜、白足が開けっ放しにした、神殿の扉を閉めたのも彼らたちだ。

緋玉は平気で『形代』を使うが、白足は見えないものにアレコレやってもらうのは、気後れした。

便利は便利だったが、音も無く返答も無い召使いを使うのは、少し気分が落ち込む。

これは性分なので、仕方の無い事だろう。

白足は、神殿の外に出て、伸びをした。

昨夜の風呂敷に、林檎を包んで腰に巻いて、来た道を帰る。

「ド、、。」

どきりと、する。

あの声だ。

「こ、木霊か、、、。

帰るっさ。

あそこは、見えないが緋玉の召使の形代達で、いっぱいで、居辛いずら〜からな。」

見えないものに、返答してて、馬鹿らしくなった。

「、、ソッ。」

ゾワッとする。

いつだか、緋玉が形代の召使達には、顔も声も無いと、言っていたのを、又思い出した。

「レッ。」

イヤイヤ、『レ』でもないだろう。

「木霊、ヌシは形代か。

それが見えるんは、稲荷の御使いだけっさな。

こ、こ、、木霊で無くて、形代なら、神殿に居れってや。」

形代の迷子など、聞いたことも無い。

吹きっさらしの石の丘に出た。

今日は風も無く、登るのも降りるのも楽だ。

あれっきり、木霊は黙り込んでしまっていたので、白足はチョコマカと歩くだけだった。

蔓の吊り橋に出た。

「それ出た。

神殿が嫌なら、橋に行きんな−。

着いて来るこたぁ、ねえ。」

ワッシワッシと、白足は蔓を頼りに、吊り橋を渡った。

森を二つ抜け、家の屋根が見えると、ホッと安心する。

井戸から、水をくんで、ゴクリとんだ。

畑を見に行くと、豆の幾つかが、落ちて割れていた。

その周りに、点々と山鳩の足跡が残っている。

早速、笊を抱えて、有りったけの豆をむしった。

仲間を連れて来られては、直ぐに食い荒らされてしまう。

太めのさつま芋を3本ばかり、掘り起こし、井戸で洗うと家に入った。

豆は笊のまま、置く。

芋はそのまま喰った。

まだ疲れていたし、面倒だったのだ。

「ソッ、ソ。」

木霊は着いて来ていた。

「うるセェ、なや。

寝る。

寝るっさ。」

食い掛けの芋を放り投げると、白足はふて寝をしたのだった。

かなり雑な性格をしているくせに、床が変わると寝た気がしないのだ。

自分の匂いに包まれて、白足はグウスカと寝たのだった。

起きると、昨夜からの疲れがようやく抜けていた。

何処からか、芋の匂いが漂って来た。

床を抜け、匂いをたどると、台所に布巾をかぶせた皿がある。

ソッとめくると、蒸かし芋が現れた。

見れば、豆も鞘から出され、笊に並べられてる。

その横に、豆殻が積まれていた。

土間の淵に腰を下ろして、白足はため息をいた。

あれに、取り憑かれたらしい。

「ド、、。」

あの声だ。

見れば、あちこちが片付いている。

「ヌ、ヌシ、形代もどき、なんか。」

恐る恐る手を伸ばして、芋を掴むと、フンフンと嗅ぎ、一口かじってみた。

旨い。

白足の料理はいつも適当だったので、煮物は半煮え、魚は焦がし、肉は焼きすぎで硬かった。

ホックリと蒸された芋は甘く旨い。

変な同居人だが、そこらの物でも、上手く料理してくれる。

そんな不思議な同居生活が1週間もたった頃、緋玉が干し魚をたずさえて、やって来た。

囲炉裏端いろりばたに通された緋玉は、サッパリとした部屋に、片目をすがめた。

「あれか。」

緋玉の差す方向から、ユラユラとお盆に乗った、湯呑みが2つ、やって来ていた。

二人の間に、お盆が、ソッと置かれた。

「緋玉が言ってた『木霊』っさ−。

色々してくれっさな−。」

緋玉は、鼻先でフンと、言った。

「流し物が寄って来るぐらいだから、な。

明道めいどうには、役立つだろう。

ほれ、この間の礼だ。」

干し魚はとうにもらっていたので、白足は、緋玉の差し出した物が何か、直ぐにはわからなかった。

それは細い網綱あみつなに、あの白い玉がくくられてる物だった。

蜘蛛の巣に捕らえられたかのような白い玉は、腰紐の飾りになる様に、こしらえられていた。

「ほれ、腰に下げてみろ。」

緋玉に渡され、白足は腰の革紐に玉を下げてみた。

何にも変わらない。

てっきり、木霊の姿でも見えるかと、期待していたのだ。

干したキノコをお茶請けに、茶をすすりながら、緋玉の眼が意地悪く光る。

「茶を、もう一杯。」

緋玉がそう言うと、涼やかな返事が聞こえた。

「今、お持ちします。」

ポワンと、尻尾を膨らませた白足は、慌てて辺りをキョロキョロと見たが、やはり緋玉しか此処には居なかった。

お盆に乗った茶が、スッと眼の前を通る。

「や、ありがとう。」

「いえ、お熱いので、お気をつけ下さい。」

白足は、膨らんだ尾のまま、又辺りをキョロキョロと見渡した。

「見える訳がないだろう、修行もしないやからにな。

白足、お前に付いてるのは、彼方あちらから来た代物だ。

こう、重なってる。」

緋玉は右手と左手をスッとかさねた。

「重なる、って、そりゃ何なん。」

「ハハ、難しいかな。

風も水も、一方に流れるのはわかるか。

それでも、渦巻きや突風やら洪水やらが、起きるだろう。

時は待ってはくれないし、混ざった風や水は、前と同じ物でもないが、重なり合っているのは、わかるか。

その混ざった間から、はみ出し流れて来るのが、それ、その白い玉とか木霊だ。

この木霊は、外側を彼方あちらに残し、此方ここに寄って来てしまって、お前にすがりついた、と、言うわけだな。

玉を腰に下げてれば、声だけは聴こえる。

まあ、その方がお前も良いはずだ。

えれば良い、と、いうものでもないないからな。」

キョトンとして居る白足と声だけの寄り物を残して、緋玉は帰って行った。

不思議な木霊は、やっぱり姿が見えないが、それでも、会話が出来ると、楽しい。

白足は、木霊の向こうの世界の事をあれこれと聞いた。

木霊の世界は、ここと違いすぎて、白足には、半分も理解出来なかった。

時々、緋玉がやって来て、3人で釣りなどをしたが、木霊は魚の潜む場所を教えてくれる。

何時もなら、緋玉にコテンコテンに負ける白足にも、釣果ちょうかがあったので、はしゃいでしまった。

緋玉のすがめた、その眼の先を白足は知らない。

それでも、互いに獲物が掛かれば、釣りは何時もの倍は楽しかった。

緋玉が帰ると、又木霊と白足だけの静かな暮らしが待っていた。

その日、緋玉から言の葉が、送られて来た。

「良くない嵐が来る。

決して、外に出るな。」

それだけの短い伝言だった。

「相変わらず、身も蓋もねえっさな。」

どれ、と、白足は嵐に備えて、外の物を片付けに出た。

空は青々と高く、風は止まっている。

嵐の兆候ちょうこうは、何処にも見受けられなかったのだ。

「緋玉様が、外に出るなと、おっしゃってましたが。」

心配そうな木霊の声が、後をついて来る。

「なに、直ぐには、嵐もんさなーー。」

外に干してあった魚を抱えた時だった。

あおく高い、澄んだ空から、雷が落ちたのだ。

脳天から足先に、雷は抜けて行った。

なにが起こったかもわからず、白足の此処での命は止まったのだった。

鳴り止まない雷と叩きつける雨が現れたのは、その少し後だった。

嵐が抜け去った後、緋玉が白足を探しにやって来た。

「ふふん、やはりな。

忠告が守れないってのが、お前だ白足。

木霊と彼方あちらに、行ったか。」

晴天の霹靂へきれきに、打たれた白足は、雨に汚れ固まっていた。

その白足を、緋玉はとむらうのだった。

弔われた裏山の裾野に、白足いなかった。

クルクルと舞いながら、何処かに流されていたのだった。

雷に打たれて、木霊の姿が見える様になっていたのだ。

見えたが、あれが木霊か、と、身震いした。

うろこに包まれた身体。

頭に生えている鶏冠とさか

魚の様な目玉。

6本指の2本の親指。

上の親指は、物を掴む為で、その下のは、退化し鉤爪だけが、荒々しくついていて、動かない。

ブヨブヨした腹の下には、短く太い足と、二股に割れた尾が、鱗に包まれて、引きずられていた。

割れた尾の2つの先には、棘が生えている。

これで顔の半分を割る口に、牙が見えないのが、不思議なぐらいだ。

そして、緋玉が言っていた様に、白足はこの木霊と重なっていた。

木霊の居た世界が、良くわかったが、重なった2人は、其処そこにも此処にも居られなかった。

重なったまま、見知らぬ世界を漂って行った。

そして、その世界の誰かに取り憑く。

悪さをする訳ではないが、取り憑かなければ、ただただ流されてしまうのだ。

川の杭に絡む、木の葉の様に、止まると、嬉しかった。

混ざり合った白足と木霊と何やらかにやらは、自然と緋玉の形代の様に、召使然めしつかいぜんと働いた。

この世のことわりが見えるので、使えた方の先々を照らしてやる事が出来る。

すでに、その姿は、竜の様な木霊でも狐の様な白足でもなかったが、重なり混ざった中で、それぞれうごめいていた。

やがて、時は止まらないが、風や水が回る様に、緋玉と居た世界に又、立ち帰る事があるだろう。

その時、緋玉は居ないだろうが、神殿に使える形代達は、緋玉も白足も覚えている事だろう。

重なり合いながら、重なる世界を白足は回るのだった。


今は、ここまで。


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