1-1.迷宮殺しと小鬼
世界は今、ダンジョンに飲み込まれようとしている。
奴らは生命体が多くいるところまで根を張り巡らせると、一気にそこを取り囲み、飲み込んでしまう。飲み込まれた植物や動物、人間は徐々に生命力を奪われ、ダンジョンの糧へとなっていき、いつしかダンジョンに生まれた魔物によって取って代わられてしまう。
そうやって私の村は滅ぼされた。
だからこれは復讐だ。
私の村を、家族を、生活を殺した迷宮への復讐――
私は全ての迷宮を殺す。
☆ ★ ☆ ★ ☆
胸からぶら下げたクルミによく似たコンパスを手に取り、金属の殻を開く。中にはガラス状の球体に収まった光があった。一つはコンパス自体を示す赤い光。もう一つは目的地であるダンジョンを示す白い光。
白い光の位置は赤い光からそう離れておらず、自分達の道筋の先を示していた。ちょうど自分が見ている小高い丘の向こうぐらいが目的地だろう。
「ギィ、もう少しだ」
「ギ!」
私の横を歩く、一匹の小鬼――
数年来の冒険の相棒で、復讐の共犯者。
生活の道具は彼が全部持っているので、今はちょっとおかしい格好している。背中には野宿に使う天幕や鍋、弓矢を背負い、腰には調理用の道具や水筒を。街に出る時はゴブリン特有の肌と角を隠すためにフード付きの外套を着ているが、今は皮の鎧を着ている。歩くたびに視界の端でリズミカルに荷物が揺れる様は時たま見ていた楽しくなってくる。
今朝から歩き通しで、そろそろ太陽が頂点に達しそうだが、まだ疲れの色は見えてこない。
それでいい。本番はこれからだ。
丘を越えると予想通り、そこにはダンジョンが広がっていた。地図上で言えば小さな村があった地点だ。
「よし、一度休憩だ」
「ギッ!」
ギィは一鳴きすると、丘の上に生えていた木の傍らに荷物を置き、食事の準備を始める。
私はその荷物から水筒を取り出し、自分の水筒から水を移す。私の使っている水筒はマジックアイテムとなっていて、大気中から水分を集め、無限に水を湧かせる便利な道具となっている。
ギィの水筒が水で満たされたのを確認し、荷物の中に戻しておく。その間に料理は終わっていた。
パンに保存の効くチーズを挟んだサンドウィッチに、干し肉。デザートにはそこらの草むらに自生した野苺だ。
正直、火で調理した料理が恋しいが、迷宮を殺すまでの我慢だ。
私達は向き合い、主への祈りを捧げた後、簡素な食事に口を付ける。
栄養はあるが道すがらずっとこれなので、野菜や柔らかい肉が恋しくなる。
ギィは――
「ギ、ギ、ギ!」
実に美味しそうに食べている。
時たまこういったものでも美味しそうに食べられるギィが羨ましく思える――
食事をあっという間に平らげ、私達はそれぞれの荷物をチェックする。自前のマチェットにひびが入ってないか確かめ、予備のナイフを用意する。ギィは鍋を兜替わりに被り、近くの岩でナイフを研ぐ。
ギィの役目はあくまで荷物持ち。弓矢やナイフを持っているが、もっぱら狩猟用だ。
ダンジョンで戦うのは私の仕事。
荷物をチェックし終えた所で、私の水筒を回し飲む。いつから始めた事かは覚えていないが、これはダンジョンに挑む前の一種の儀式だ。
大気から集められたばかりの水が喉を潤す。次に一息吐けるのはいつになる事か――
「行くぞ、ギィ」
「ギッ!」
復讐の始まりだ――
久し振りにノーマルを書くと描き難さにむずかしさを実感する。
第一章は続けて投稿予定。問題等ありましたら、消去求む。