03 私にとっては普通の日
学校に行く途中の道を歩きながらも、私は夢の中のことを考えていた。
ただの変な夢だと思うんだけど、時々予知夢を見るようになってからは夢のことを考察するのがある意味癖になってしまっている。
夢占いというものがあるくらいだ、夢は心の中を写すし、出てきたものによって今自分でも気づいていない体の不調やストレス源に気づくことだってできる。
私の中では、夢は夢だけどただの夢ではない。いつからか、夢日記を付け始めたのもそれに気づいてからだ。
「ゆいーゆーいー」
振り返ると、自然と顔が緩んだ。
「陸!あ、あと健人。おはよう」
陸は相変わらず、色素の薄い茶色の髪をはねさせている。少年のような高い声に幼げな容姿も相まって、本当に同い年に見えない。横にいるごついやつとの比較で余計に可哀想なことになっている。
「おい、あと健人ってなんだよ。俺がオマケみたいな言い方しやがって……ったく」
「ごめんごめん、今日の陸も可愛いから、つい。ね?」
「う、ゆいに可愛いって言われちゃったよ~やったね!! けんのお陰だね~」
横のごつい健人は相変わらず口が悪い。陸の言葉の後に舌打ちをして
「俺のお陰ってなんだよ。誤解されそうな事言うな」
………と。うん、機嫌悪そう。いつも通り。
この2人はいとこ同士らしいのだか、身内の都合で一緒に住んでいる。去年引っ越してきた2人は、クラスで孤立していた私とすんなり馴染み、あっという間に仲良しになってしまった。個人的には男女間の友情って、成立しないとおもってたんだけどなぁ。この2人はまるで昔から一緒にいたかのように馬が合うんだ。
私は予知夢をみるのもそうだが、霊感も強くてちっちゃい頃はかなりの電波少女だった。今だから言えるが少しいたかった。
変なものが見えて、しかも祓うだけの力もあった私は正義の味方を称して人に付いたものを祓っていたのだが、そんな変な子がちっちゃな子供社会で馴染めるわけがなく。私自身群れることが苦手だったため余計に孤立して………ここ数年、お祓いを大っぴらにしなくなったのもあるし、進学することで昔の黒歴史を知ってる子がいなくなったのもあって、こういう2人のような仲の良い子ができた。人生何が起こるかわかんないな。
「なぁ優衣、肩が重いんだけど――」
「だろうね、また憑いちゃってる」
「また?………ったく、頼んでい………」
言葉もすべて聞かずに私は、手を健人の肩に乗せて軽く叩いた。肩の所にあった陽炎が、空中に溶けてなくなる。
「おぉ、流石だな。仕事が早い」
「こっちは祓い歴17年のベテランですから??」
肩を回して、健人は満足げにうなづいた。
「けんだけずるいよー、ゆい、僕も祓って?」
「てか、17年?お前生まれた時から祓ってたのか?」
「陸は憑いてないから祓わなくていいの………まぁそんなこと覚えてないけど、ね。ものは言いようよ。健人」
健人が憑いているのは、見た瞬間からわかっていた。
もやのような、炎の上の陽炎のような――実際私はそう読んでいるが、そんなのが肩の上に見えるのだ。ちょっとその当たりだけよどんでいるかのように。
健人は珍しいほどに憑かれやすいタイプで、陸はその逆。まぁ、息をするように簡単に祓えるので、見つける度に健人は祓っている。放置するとそれなりに厄介らしいんでね。正直変になるほど憑かれてる人に出会ったことないが………
「あ、理恵だ。声かけてくる!」
前に、親友の理恵が見えた。2人にごめんね、と告げて走り出す。
いた……………み つ け た
「ッ!? …………なに。いまの。」
急に感じた悪寒。そして頭に直接響いた、気味の悪い声。
咄嗟に周りを見渡す。前を歩く理恵、少し後ろにに健人と陸。学校が近くなったので他にも何人か学生が歩いているが、とりあえずその中の誰かの声だとは思えなかった。
「ゆい……どうしたの?」
陸はすぐに私の異変に気づいて駆け寄ってきた。
不安そうに目をのぞき込む。
遅れて、健人も寄ってくる。
「い、や………うん、何でもない。大丈夫。ありがとう」
近くに大きな陽炎もないし、ただ疲れているのかも。もしくは今朝の変な夢に引きずられているのか。とりあえず今はもう何も感じないし声もしない。考えてもわからないのだから、もうやめよう。
「ゆいゆいー!おはようーーー!」
理恵が私に気づいて手を振ってきた。笑いながら手を振り返して、2人にまたね、と言いかけていく。
「………けん、今のゆい」
「感じたな。今まで、ほんとにあいつがそうなのか。疑いたくなるくらいだったが」
「ほんとにね……この1年が無駄になっちゃうんじゃないかって。僕はしんぱいだったよ」
2人の顔に影が落ちる。
「………俺はな陸、正直。このまま今のユイと平和な時を過ごせたら、どんなにいいかって…思ってたんだ。ははっ、オカシイよな、そんな事……望めないの、とっくの昔に分かっていたのに」
「大丈夫。僕もにたようなこと考えてたから。なかまだよ。でもね、それが僕たちの運命だって………この血をひいて生まれてきちゃった、さだめだって。わかってるよね」
「………あぁ…大丈夫。解ってる。わかってる、さ」
近づいてきた学校からチャイムがなる。
あと10分でホームルームの時間だと告げている鐘の音は、なぜか故郷の教会の鐘と重なって聴こえた。昨日までとは違う―――
もう。戻れない。