01 彼女は誰?
………はぁ、はぁ。
息づかいが聞こえる。誰だろう。
………っ、はぁっ、はぁっ、
走っているのだろうか?一定のペースを保ちながら、聞こえるその音に耳をすませていると真っ暗な視界に光がさし、色で溢れた。
視界に1番多い色は、緑。上の方に黒に近い、夜の空の色――いや、実際に、これは空だ。
ピントが合ってくる、次第に情報が集まってくる。
………はぁっ、はぁっ、っっ!!
息が乱れる、と同時に視界がくらみ、私は地面に倒れた。濡れた土の匂い、それと共にむせ返るような森の匂いに気づく。そして、かすかに遠くから鼻を刺激する臭い。何の臭いだろう。それと同時にするバチバチという音と、熱気。
考えがまとまってないのに、私の体は立ち上がり、逃げるように、もつれた足を必死に動かして走りだす。
逃げるように?………そうだ、この体は。彼女は、逃げているんだ。何かから。
意識がハッキリとしてくる。妙に冷静な私とは裏腹に、彼女から感情が波のように押し寄せてくる。
戸惑い、迷い、それを断ち切るように強い意志と、あとは………強い怒り。
後方から熱風が、一瞬嵐のように突き抜けた。
その瞬間、彼女は後ろを振り返った。
………おとう、の、家、が、まさか。
大きい家が炎に包まれている。彼女から強い感情とともに、言葉が紡がれる。
かなり離れた所にいるのに、ますます強くなる熱気。そして凄まじい音と共にその家は崩れ、代わりに火柱が上がった。
………う、そ。
膝から力が抜け、その場に崩れる。伝わる絶望。
刹那、背後に気配を感じ、彼女は本能的に振り返った。
「あなたが、森の落とし子、自然の力を宿す神の末裔。だよね??」
鈴を転がすような可愛らしい声、この場には合わないくらい、明るく響く声の主はそのように声をかけた後に、藍色の髪を耳にかけ彼女に、私に近づいてきた。
………っ、や。
拒絶の意志、彼女は後ずさろうとしたが力が入らず、思うようにいかない。
「だいじょーぶ。私は、敵じゃない。リーリャと同じ。ごめんね。間に合わなかった。見えていたのに。何とかなったのに」
一瞬苦しそうに顔を歪めたが、少女は彼女に手を差し伸べた。
「はやく、手をとって。彼らもばかじゃないもん。すぐに追いかけてくる。1人殺し損ねてることくらい、しかも1番消さないといけない子を消してないことに、気づかないわけがないじゃん」
………っ、う、
彼女は声にならない声を上げて、拒絶の意思を言葉にしようとしたが、喉からは音しか出てこない。意味のない、ただの音。
「………っ、やばい、ほんとに――――」
少女の焦る声と共に、私の意識も急に白く覆われていく。彼女の感情も届かなくなり、体の感覚も、土の匂いも――――。