都市伝説の終わり
夢を見た。
二つの光が狂気を孕み、そして廃墟へと向かっていく。
何となくだが、それが全ての根元のような気がした。
僕は飛び起き、走る。
全てを終わらせる為に。
ー
廃墟に辿り着くと一人の少年がいた。
少年はこちらに気づくとにこりと笑った。
「よくここまで来れたね。おめでとう。」
少年は僕の方へと歩み寄り、語る。
「キミの推測通り、狂気を生んでいたのはボクらだ。ボクらって言っても、もうボクしかいないけど……。」
少年は力なく笑う。その様子は少し寂しそうにも見えた。
「せっかく来てくれたけど……どうやらキミはもうダメみたいだ。キミも、狂気に憑かれてしまっている。」
その事には僕も気がついていた。僕はきっと……弟が死んだあの日から狂気に憑かれていたのだ。それでも、どうしても全ての根元である狂気を消し去りたかった。僕には強い意志があった。
「キミの意志は素晴らしいよ。ここまで、本当によく頑張ったね。」
少年が優しく僕の頭を撫でる。僕の中で張りつめていたものがプツリと切れる音がし、気がつけば僕の目からは涙が零れていた。
「キミがもっと早く来ていたら……ボクも楽になれたのかな……。」
少年が悲しそうな表情をして呟く。そして、僕の方を向き直って言った。
「ここまで辿り着いたご褒美をあげる。」
「ご褒美……?」
「そ、ご褒美。」
優しく微笑む少年の顔に、何故かもう頑張らなくて良いんだという安心感が込み上げてくる。そして僕はまた泣きそうになった。
「でもごめんね?ボクができるのは、ライアーが手を下したところだけだ。」
少年は悲しそうに呟くと、改まって僕の方を見てにこりと微笑んだ。
「おやすみなさい、ライアー。」
ー
気がつけば僕は廃墟の外にいた。
周りには誰もいない。
まるで長い夢でも見ていたような感覚に僕は首を傾げる。
(僕はなんでこんな場所にいるんだ……?)
辺りは暗い。どうやらもう夜のようだ。
不意に足音が聞こえてくる。僕は驚き、問いかける。
「…誰かいるのですか?」
「そっちこそ、こんなところに夜に来るもんじゃないよ。」
「………!!」
僕はその声を聞いて驚く。聞き覚えのある声。その声の主は確かにいなくなった筈の弟のものだった。
「………悠?」
僕が問いかけると悠は驚いたような顔をした。
「どうして僕の名前を?」
記憶がないのかどうにも悠は僕のことを覚えていない様子だ。
それでも僕は嬉しかった。悠が存在していたことが無かったことになっていないことに。
「明日。昼にまた来ますから、良かったら姿を見せて下さい。」
そう言って僕はこの場を立ち去った。
(名前……返さなきゃな。)
「おーい!悠!」
不意に声をかけられる。振り返ると瞬の姿がそこにはあった。僕はその姿を見た瞬間、何故かとてつもない安心感に包まれた。
「お前なんでこんなとこにいるの?何?お化け屋敷探索的な?」
「なんか……気がついたらここにいて……って瞬こそどうしてここにいるんです?」
「なにそれ怖っ。俺は家がここの近くだからな!」
「そうなんですね。なんだかとても怖い夢を見ていたような気がします。」
「へぇー……ってお前、こんなところで寝てたのかよ!ヤバいだろ!」
瞬に指摘され苦笑いをする。自分でもなんでここで寝ていたのか分からないけど、こんなところで寝るなんて相当疲れていたのだろう。
「あの……」
「ん?」
「僕……実は悠って名前じゃないんです。」
名前を返す。それはつまりもう僕は悠じゃないということだ。それを伝えると瞬はポカンとした表情を浮かべた。
「は……?」
瞬が間の抜けた声を出す。
「じゃあお前、誰なの?」
そう言われ、考える。僕はもう元の名前なんて忘れてしまった。
「えっと…………」
困惑していると不意に瞬が声をあげて笑い出す。
「お前でもそういう冗談とか、言うんだな。」
「じょ、冗談じゃないんだけどなぁ。」
瞬に笑われると何だか急に恥ずかしくなってくる。
「今から帰るのですか?というかこんな時間まで何してたんですか?」
「居残り。」
瞬はいたずらっぽく笑って言う。その言葉に僕は少し呆れながら笑う。
「そんな事だろうと思いましたよ。僕もそろそろ帰ろうかな。」
「お!それなら一緒に帰ろうぜ!帰り道どっち方面?」
「こっちです。」
「真逆じゃん!」
「それじゃあ一緒に帰れないな。」と瞬は笑う。僕は何だかその笑顔に、いや、瞬が隣にいること自体に大きな安堵感を覚えた。
怖い夢を見たからだろうか。今のこの関係がとても貴重なものに感じられた。僕はこの関係をずっと大切にしたいと思う。
これからもずっと平和な日常が続きますようにと小さく祈り、小さな決意を抱えながら僕は瞬と共にこの場所を後にしたのであった。
ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます!
孤独ノシリーズ番外編『寄生蟲』がようやく完成しました。
この話を完結させるまで実は三年以上もかかっていまして、私は今とても感慨深く感じています(笑)
今回中途半端な感じの終わり方をしていると思われるかもしれませんが、孤独ノシリーズの他の話を読んで頂ければきっと結末が分かるかと思います。
改めまして、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!