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寄生蟲  作者: 麗琶
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嘘を吐く者―ライアー


「えっ……」


目の前に広がる赤。

人形のように力なく倒れた人は確か最近ニュースに取り上げられていた殺人犯だ。

思わず口から零れた声に反応してそいつは振り返った。


「あぁ、見ちゃったの。」


何も感じない、冷たい声が俺の耳へと伝わる。

いつもの温かみなど消え去り、まるで魂が抜けたかのような光のない虚ろな眼差しが俺に刺さる。


「……狂気は消さなきゃいけない。」


カシャリと音をたてて真っ赤に染まった鋏が落ちる。

それを拾い上げそいつはぽつりと呟いた。

まるで人格が変わってしまった。

今目の前にいるそいつは俺の知っているそいつじゃない。


(こんなの違う……。)


確かにこの人は殺人を犯した人だ。その行為が許される訳がない。

でも……。

月の光に照らされじわりと瞳が赤く、不気味に光る。


「あんたの方が狂ってる様に見える。」


足がすくみ、動けない俺に背を向け歩き出したそいつに向かって俺はようやく言葉を放つ。


「ライアー……」


そいつは振り返ることもなく立ち去っていった。



「……どうしました?」


悠の声にはっと我に返る。


(あれ?俺今何してたっけ?)


まだぼんやりとしている頭で状況を整理する。

辺りを見渡す。今俺は学校の前にいる。


「そうだ!下校中だ。」


悠が怪訝そうに俺を見てくる。


(うーん……?何かあったような……。)


妙な違和感に襲われ、少しだけ居心地が悪い。


(白昼夢……?)


「あの……大丈夫ですか?」


「おう。平気平気。」


心配そうに俺を見る悠に俺は笑ってみせた。

違和感の正体は気になるところだが、まあ考えても分からないことをうじうじ考えていても仕方がない。


「ところで今日の授業のさー」


「課題の答えなら教えませんよ。自分で考えてください。」


「まだ何にも言ってないじゃん!むしろなんで課題の事だって分かったの!?エスパーなの!?」


驚いて言うと悠はくすりと微笑んだ。


「貴方の言うことなんて大体分かりますよ。」


この時悠は確実に俺のことを信頼していた。俺も悠のことは普通とは違う、大切な友達だと思っていた。それが唐突に壊れるものだと知らずに。



いつの日か、悠は虐められるようになった。

俺は周りが何と言おうと悠の親友であることを止めようと思ったことはない。だからずっと悠を支えていた。

しかし、ある日のこと。いじめっこの一人から友だちなのかと聞かれたとき、俺は答えることができなかった。

標的が俺に移るのが怖かったのではない。悠をめちゃくちゃに傷つけたいという衝動があったのだ。その衝動が何故生まれてくるのかは自分でも理解ができなかった。


「瞬……。」


悠が気まずそうに話しかけてくる。俺は何かにとり憑かれたかのように言葉を放つ。


「俺はお前を友だちだと思ったことなんてない。」


俺の言葉を聞いた悠は驚き、戸惑うような視線を俺に向けた。


「仕方なく付き合ってやってただけだっつーの。大体おれのお陰で今まで学校で上手くやってきただろ?少しは感謝して欲しいね。」


本当はそんな事なかったはずだ。本当に友だちだった。分かってはいるけど、自分の発言に罪悪感も後悔の念も無かった。俺を気遣うような視線も、こんなことを言ってもなお俺のことを許してくれそうなその態度も全て嫌いだと思ってしまう自分がいた。

戸惑うように俺を見ていた悠は突然目を丸くして、その表情は怯えたような表情へと変わる。


「そう……分かったよ……。」


ポツリと呟いた悠はとても悲しそうな顔をして教室を後にした。



その日の夜。

カタン。

一つの物音で俺は目を覚ました。

慌てて辺りを見渡すとボロボロに壊された扉が目に映る。


(な…なんだこれ…)


不意に背後に人の気配を感じ、振り返ると見慣れた姿がそこにはあった。


「悠……?」


そこで俺は前に見た夢を思い出す。


「ライアー……俺を、殺しに……?」


戸惑う(ライアー)は何の感情も宿らない眼で俺を見る。

俺を殺しに来た?ライアーが?どうして?

脳裏にライアーに殺された殺人犯の姿が浮かぶ。


(俺もあの人みたいに……?)


背筋にゾッと寒気が走る。


「僕は黒い靄を追いかけてここに来たんだ。僕があの学校に転入したのもそれが理由。黒い靄……それはとても危険で、人をボロボロにする狂気そのものなんだ。」


悠がポツリポツリと語りだす。いつもの丁寧さもなく、まるで別人のようだ。


「今日君に、狂気が入り込むのを見たよ。」


その眼差しにはもはや友情なんてものはどこにもない。虚ろで冷たい、そんな視線が俺に刺さる。


「狂気に憑かれた人は消さなくちゃ。」


悠に躊躇う様子は一切無い。きっと友だちだからと止める気はないのだろう。そもそも昼間にあんなことを言ってしまったのだから今さら友だちなんていう馬鹿げた言葉は通用しないだろうけど。


「止めろ!止めてくれ!!」


俺は怖くなって叫ぶが、助けが来る様子はない。この場所には俺と悠しかいないかのようにすら感じる静けさだけがあった。


「大丈夫。君は悪くない。悪いのは全てこの狂気だ。」


悠の眼がじわりと赤く光る。俺には悠の方がよっぽど狂気じみているように見えた。


「安心して?全て夢だから。全て、嘘だったんだから。」


そう言って悠は鋏を振りかぶった。


「さよなら、瞬。」

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