綾小路隼人の場合 06
第十一節
「ここは紅茶の茶葉が本格的でね。ミルクも絶品。にもかかわらず値段はリーズナブルなんです」
「…」
「お菓子は何にします?ミルフィーユがお薦めですけど」
「なら普通の喫茶でいいだろが」
「まあまあ。このお店はアトラクション性の高い出し物は一切ないんです。挨拶こそ定番ですけど、ごく普通の喫茶店の制服がメイド調だったという程度のアレンジなんです。そこがいいんですよ」
「…はあ…」
「見てください」
見てみると、別のお客が帰った後のテーブルを“メイドさん”が甲斐甲斐しく拭き掃除をしている。
「いいでしょ?」
「…いいのか?」
「ついでに言うと、店の奥にはカウンターバーがありましてね。メイド喫茶でありながらお酒も飲めます。未成年なんで飲んだことはありませんが。更に店の奥にはポーカールームもあるって話です。英国調なんでね」
「ポーカーってあのトランプの奴か?」
「ええ。イギリスっぽいでしょ」
「日本じゃ賭け事は禁止だろ」
「本当に賭けたりはしませんよ。単なるカードゲームです」
その時、信じられないものが目に入った。
先ほどまで橋場が着せられていた服装と全く同じ服装の女が、男と仲良く談笑していたのである。
「…っ!」
気が付いたのは二人同時だった。
相手は…サングラス男だった。
第十二節
慌てて視線を逸らす橋場。
「…こんなところにいやがった」
「偶然ですね。…どうします?」
「知れたことだ。ぶちのめす」
「メイド喫茶ファンとしては店を壊さないで欲しいんですが」
「知るか!相手次第だ」
「…橋場さんは相手を同じ目に遭わせようと思ってるでしょ?」
「当たり前だ!」
「それには、相手に試合を申し込んで、その上勝つか、或いは解除条件を納得させないといけませんよ?力づくでは無理です」
「…試合で勝てばいいんだろうが。助太刀させなければいい」
「僕だったら絶対に試合に同意なんかしません。そうなればメタモルファイターにはメタモル能力は効きません」
「じゃあどうすんだよ!」
「僕に考えがあります」
(続く)




