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水木粗鋼の場合 05


第十一節


「何です?」

「悪いがこっちも用心深くなっててな。あんたとの話はここまでだ」

「どうしてです?」

「これが最後だ。要するにオレたちメタモル・ファイターにはいろんなタイプがいる。この間『試合開始に関係なく能力の自動発動』タイプに遭遇してヒドい目に遭ったんだ。基本的に試合開始を同意してなきゃ心配する必要はないはずだが、あんたがどんなタイプなんだか知れたもんじゃない」

「え?でも試合開始を同意しなきゃ僕らの能力はお互いに効きませんよ?それくらいご存じでしょ?」

「だからそこも例外のある奴がいるかもしれねえって言ってんだ!ある程度会話したら自動的に勝負が成立する能力とかよ!」

「橋場さん…そりゃ幾らなんでも用心しすぎですって」

「そうかね?オレはこの能力が発現して、お前らみたいなのに出会って以来枕を高くして寝たことは無いんだがな」

 緊張感が流れた。

「分かりました。仕方がありません。種明かしをします」

「種明かし?やっぱり特殊系ですか?」

「用心しろ!そいつと会話するのは危険だ!」

 水木は一枚の写真を取り出した。

「見てくださいこれ。大丈夫、そんな発動条件ありませんから」



第十二節


 用心深くすぐには飛びつかない橋場と武林だったが、斎賀は手に取った。

「…可愛いですね」

「何が映ってる?」

「橋場さんも観て下さいよ。目の保養になります」

 仕方なく掲げられた写真に視線を走らせた。

 そこには、真っ黒な厚手のワンピースにフリルが大量についたエプロンをした女性が映っている。いわゆる「メイド」姿だ。

 ヘッドドレスと呼ばれる髪飾りやおさげ髪は勿論、満面の笑みで小首をかしげている。

「メイドだっけ?」

「ええ。メイドさんです」

 一瞬の間がある。

「これ、ボクなんです」

 水木がもじもじしながら言う。

「…」

 もしも橋場が生まれつきの女だったら「きゃーかわいいー」くらいは言ったのかもしれないが、男なのでドン引きだった。

「…女装してたってことか?」

 それにしては体型が余りにも違い過ぎる。顔の造形だって別人だ。幾ら化粧の技術が発達してるからって、大人が子供にコスプレするみたいなことが可能な訳が無い。逆ならばともかくも。

「…もしかして、メタモル・ファイトに敗れた後ですか?」

「はい!そうなんです!」

 目を輝かせ、身を乗り出すように言う水木。



第十三節


 それにしては余りにも堂に入った「女の子」ぶりだ。

 いや、メタモルファイトは負けた側が操られるので、挙動をいじられることは十分考えられる。これもまた、試合途中の辱めだと思えば合点が行く。写真を撮るなんてことは想像もしていなかったが、案外ありかもしれない。

「ハッキリ言いますけど、是非とも出来レースをやってほしいんです!」

「はぁ!?何を言ってんだかサッパリわからんぞ!」

「ははは!なるほど!」

 斎賀が膝を打った。

「つまりこういうことですね。あなたの目的は試合に勝つことじゃなくて試合に負けることなんだ」

「そうなんです!その通り!」

「なんじゃそりゃ!?そんなことしてどうするんだ!」

 武林が吠えた。

「ご本人からは言いにくいでしょうからボクが代弁しましょう。違ったら訂正してください」

 凄い勢いでコクコク!とうなずく水木。

 何というか、物凄く奇妙な雰囲気の男だ。成人男子の中に幼稚園児が入っているみたいなピュアさが猛烈な違和感を醸し出す。

「要するにあなたは、一種の『コレクター』なんですよね?この世に大量に存在するメタモル・ファイターに片っ端から負けて、自分が色々に変身させられている写真を撮るのが趣味なんでしょ?」

「そうです!」

 橋場は腰が抜けそうになった。

 なんという物好きだろうか!そんな人間がいたなんて!



(続く)


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