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沢尻瑛子の場合 48


第九十九節


 そんなこんなで周囲公認の仲となった群尾卓也と沢尻瑛子は今日も仲良くお付き合いをしている。

 最初は抵抗していた仲良し三人組(清美、恵理)たちも徐々に群尾の人畜無害ぶりに警戒感が薄れたらしく、今では四人でカラオケに繰り出すこともある。

 瑛子は、「カミングアウト」をたった一人相手ではあるが成功させ、「彼氏公認」で能力をふるっている。

 勿論、激烈な効果なので手軽にポンポン繰り出す訳ではないが、余りにもたちの悪い痴漢などには容赦しなかった。

 現在の不安要素は、まだ一度もそんな雰囲気にすらなったことが無いけど、群尾と「ケンカ」になった時に群尾を女子高生にしてしまわないかどうかということだけだった。


「タクヤ…どうしようか」

 目の前に怯えた美少女が座り込んでいる。

 瑛子の学校の制服…勿論女子の…を着こんでいる。

「この人ってオタク狩りの人だと思うけど…」

「あたしだって知ってるよ。でも、この間池袋でホームレスを殴り殺したのってこいつらだよね?」

「そうみたいだね」

「それに比べれば男が女になるくらいはガマンしてもらわんと」

「あ…あはは…」

 正直、群尾は遂に目の前で男が女にされ、女子高生にされるところを目の当たりにしてしまったのだった。

 群尾自身が生粋の男であることもあるが、何とも複雑な感情を喚起せざるを得ないものであった。

「…いつもはどうしてるの?」

「大抵は放ったらかし」

「じゃあ、そうするしかないのかな」

 美少女の目が「そんな!」と哀願に包まれる。



第百節


「わりー。あたしの能力って、彼氏を準備してやるところまでは整ってないんだわ」

「あ…あはは…はは…」

 群尾には「それで困ってる訳じゃないんだけどな…」と同じ男ならではの理解が働いたが、瑛子はどうだろうか。

「どうせなら臭いにおいは元から絶とうか」

「どういうこと?」

「あたしの掴んだ情報だと、こいつらって五人組よね?だから残りの四人も狩るわけよ」

「で、全員女子高生にすると」

「うん」

 美少女がうーうー!とうめいている。

「さながら都会のハンターだね」

「そんなところよ。正義の味方っていうかさ」

「…それもいいけど、瑛子さんと別のところにも行きたいな」

「あんたもいい根性してんね。これ観ても平気なんだ」

「いや、平気じゃない」

「…もしかして誘ってる?」

 沈黙が答えだった。

「…この際ハッキリ言うけど、あたし清美たちと違って初めてなんだけど」

「ボクもさ」

「ふーん…」

「軽蔑した?」

「いや、しない。でもさ、もしかして敵意と判断しちゃうかも?」

 ぷっ!と噴き出す群尾。

「そうなるとたちまち百合場面になるわけだ」

「…ゆりって何?相変わらず分からんわ」

「いいよ。試してみよう。瑛子さんに受け入れられなくても本望だよ」

「…じゃ、行こうか」

 瑛子はこの年齢になって初めて、父親と弟以外の異性と好意をもって手を繋いだ。


 沢尻瑛子は今日も『自分の判断』で成敗のために能力をふるうのだった。

 そして、ささやかな趣味として、被害者を「どう可愛く」演出するのかというこの世で自分以外には誰も持っていないであろう趣味にのめり込み始めていることに気が付いていた。



*沢尻瑛子 メタモル・ファイト戦績 〇勝〇敗〇引き分け 性転換回数〇回



(続く)


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