沢尻瑛子の場合 44
第九十一節
「な、何?」
きょろきょろと周囲を見渡し、人気が少ないのを確認する瑛子。
「これから大事な大事なことを話すから、よく聞いてね」
ちぎれそうなほど首を上下にぶんぶん振る群尾。
「えーとね…結構信じられないかもしれないけど、嘘じゃなくて本当だから」
「…分かった」
必死に真面目な表情になろうとしている群尾。
ふう、と息をついて改めて深呼吸する瑛子。
「もしもこれから話すことを聞いて、それでそんな女とは付き合えないと思ったら別れてくれていいから」
「うん。聞かせて」
「よーし」
何故か瑛子の心臓はドキドキしていた。
「まず、あたしってムチャクチャにケンカ強いのね?」
「そうなんだ…」
「あー、あたしの弟とかにインタビューとかしても意味ないから」
「弟さんいるんだね」
「いらんけどいる。まーいーわ。そういうんじゃなくて、とにかく半端じゃない強さなのよ。下手な格闘家くらいだったら余裕で勝っちゃうくらいに強いワケ。ここまでいいかな?」
「なんだそんなことか」
「驚かないんだ」
「全く驚かない。何か問題が?」
「あっそ。まあいいわここからが本題」
真面目な表情を更に引き締める群尾。
「あたしね。特殊能力があるの」
「…特殊…?」
やっと群尾の表情が怪訝なものになった。
第九十二節
「そう。特殊能力。気に入らない男がいてさ、そいつが殴り掛かってきたとするじゃない」
「…はあ」
「そしたらそいつを…その男を女の子に変身させちゃえるわけ」
しばし沈黙。
「…ごめんもう一回いいかな」
「だから!あたしに男が一方的に殴り掛かってきたりしたとするじゃん!」
「はい」
「そしたらあたしは、特殊能力でそいつを女の子に変身させちゃえるわけよ」
「…?」
「その上、着てる服が何だろうが今あたしが着てるこの女子の制服に着替えさせちゃえるの」
しばし沈黙。
「…それはその…女子高生にしちゃうってこと?」
「そう」
「男を?」
「女に試したことないけど多分そう」
「キミが?瑛子さんが?」
「そう。あたしがよ」
かなり長い沈黙。
「え…と…これって何の話?何かのアニメとか?」
「いや、そうじゃなくて…確かにアニメみたいな話だけど、実際にそうなの!」
「えっと…これってその『設定』とかそういう話?」
「なんだって?」
「『設定』だよ『設定』」
「何よ『せってい』って」
「『設定』知らないの?じゃあ厨二病って訳でもないんだ」
「ちゅう…なんだって?わかんねーよ!オタク用語でしゃべんな!」
軽くキレ気味になってしまう瑛子。地が出てきた。まあ隠してないが。
「あー、いや。分かったよ。うん」
「ってかホントに分かったの?」
「うん。分かった」
「隠しといて後から“話が違う”とか言われるのヤだから先に言っといたの」
(続く)




