水木粗鋼の場合 04
第八節
確かに無理やり分類すれば斎賀はイケメンの部類には入るのかもしれない。整った顔立ちに知性を感じさせるメガネ。育ちがいいのか全体的に清潔感を感じさせる制服の装いもいい。
隣にいるのがこれと言った特徴の無い学ランのオスガキである橋場と、粗暴さと頭の悪さがにじみ出る武林だ。
比較してしまえばこの中では最も「男らしさ」いや「男臭さ」ランキングは低いのは間違いない。
ただそれは、ゴキブリとカブト虫とニホンザルを並べて、一番人間に近いのがニホンザルだと言ってるみたいなものだ。
とてもではないが、斎賀を見て「女の子に見える」「綺麗」とは思えない。本当にそう見えているんだとしたら、郵便ポストだってグラビアアイドルに見えるだろう。
「オレじゃ駄目なのかよ?」
不満そうに武林が繰り出す。
「えっ!もしかしてあなたも!?」
何というか奇妙なイントネーションの甲高い声で、見た目とのギャップがある。
「…さしつかえなかったらいいかな?…ひょっとしてあんた…オタクって奴?」
若干遠慮がちに橋場が切りだした。
「え…」
「ちょっと!失礼ですよ!面と向かってそんなこと訊くなんて!」
「そういうもんなのか?」
きょとんとしている橋場。
第九節
「えーとですね。あ、申し遅れました。わたくし、水木粗鋼と申します。名刺がありますので良かったらどうぞ」
「名刺!?」
水木と名乗った男は、淀みなく名刺に言及した割には苦労して取り出した。
「あ、俺はいいや」
「僕は頂きましょう」
橋場が遠慮した名刺を受取る斎賀。
しげしげと眺めている…が、特に変わったところは無いもののようだ。
「あ、わたくしがオタクかどうかということですけども。えーとですね。一面においてはそういうことも可能ではあるかと思いますが、総合的に考えてオタクというには修行不足な面も多々あるのではないかと思いますので、自分から名乗ったりはしていません。はい」
「…はあ」
「えーつまりですね」
「…もういいっす。分からんけど分かりました」
面倒くさい奴だな…と橋場は思った。オタクってこういう感じだよな、とも。
「で?ファイトをしてほしいと」
「はい!是非お願いします」
「僕からも質問いいですか?」
斎賀である。
「僕は名刺は作ってないですけど、斎賀健二と申します。何しろリスクがある戦いですから避けられるものなら避けたいんですよ」
「あ、それだったら問題ありません。ノーリスクですから」
「んな訳ないって!戻れなかったらどうするんだ!」
武林が少し大きな声を上げた。
「すごい!皆さん顔馴染みなんですか!?」
第十節
お互い困った表情で顔を見合わせるしかない三人。
「まあ…」
「よかったらお仲間に入れてください!お願いします!」
またお互いを見渡す。一体どうしたものやら。
「お仲間はいいんだけど、ファイトがどうしたって?」
「すいません。表現が悪かったですね。試合というよりも協力してほしいんですよ」
「協力って何だ?」
「あ、お話聞いてくれるんですね?良かったら場所変えません?密室の方がいいと思うんですけど」
相変わらず甲高い声に妙なイントネーションでしかもハイペースである。余りにも普段の日常生活で出会わないタイプなので面食らってばかりだ。
「そりゃ何か?ラブホテルにでも連れ込もうってのか?」
「違いますよ!カラオケボックスとかですって」
腕を組んで考えている斎賀。
「全額前払いで僕ら三人おごりなら考えますけど」
「いいですよ!構いません!でもそれなら全員と戦いたいんです!それでどうですか?」
「オレは御免だ。そんな危なっかしい話は出来ん」
「大丈夫です!安全ですから!百パーセント安全です!」
「『百パーセント安全』なんて言えば言うだけ怪しいですって」
「ですか…ですよね?」
「そこまでだ」
橋場が鋭い目を向けた。
(続く)