沢尻瑛子の場合 36
第七十五節
「そうだそうだー!」「オレたちも被害者だー!」とヤジ。
目を閉じて考え込んでいる瑛子。
「駄目だわ。やっぱり許せない」
「どんな根拠でかな?」
一回目をあけ、もう一度閉じて考え、再び開ける。
「…確かに男って溜まるもんでしょうね。弟がいるから何となく分かるわ。でもね、世の中の男のほぼ全てはそういうケモノみたいな欲求をきちんと制御してちゃんとした社会生活送ってます。世の男の半分が日々暴力でレイプしながら欲望発散してるなんて聞いたことが無いわ」
「…で?」
「……『で?』って…」
「どうする?オレたちを殺すのか?」
大きく深呼吸をしてから続ける瑛子。
「殺しません。かといってこのまま解放もしません。罪を償ってもらいたいこともあるけど、何よりあんたがたを野に放てばあたしや、あたしの周辺の人間が危険にさらされることになるからね」
「その為にオレたちを犠牲にするんだな」
ふふん、と勝ち誇ったかの様な表情になる瑛子。
「悪いけどそういうことになるね。この行為が正義かどうかなんてあたしは興味が無い。ただただ自分たちの安全が第一。そういうことよ」
「ほう、見上げた博愛主義者だ。つまり」
「黙って!」
大男の唇が物理的に糊付けしたかのようにひっついた。
「…どうも口が達者な人みたいね。その調子で論争されたらどんな無茶な結末でも納得させられちゃいそうなんでここでおしまい」
他の人間がヤジをやめない。
「ふん…どんな屁理屈でももう相手にしないわ。あんたがたは病的にうそつきだもん。それにね、あんたがたが本当に集団レイプ常習犯のヤクの売人かどうかなんてどうでもいいわマジで。それよりも何よりも、あたしとあたしの周囲の女の子たちがあんたがたにレイプされないことが重要だから」
そういって一番右の男の肩にぽん、と触れた。
第七十六節
瑛子はこれみよがしに横に整列した一群の正面に一番右の男を引っ張っていき、存分にその「変身模様」を見せつけた。
喋りを解禁された一番右の男だったが、「うっ!」「ああ…」「おあああっ!」くらいしか話せなかった。
獣欲に駆られた男たちの目の前で脚が内側に閉じて行き、臀部が膨らみ、背が低くなり、髪の毛が伸び…。
忽ち女へと性転換してしまう。
男たち残り七人から血の気が引いていく。目の前の小娘が、一体何を意図してこんな配置にしたのかが察されたためだ。
目の前の一番右の男の変化は止まらず、大好物である思春期の美少女と成り果てたところから更に進み、気合の入ったストリートファッションは見る影もなく可愛らしい女子高生の制服へと変貌してしまう。
「はい出来上がり。可愛いよっ!」
「きゃあああああーっ!」
わざわざ“観客”に見せつけるかの様に短いスカートをめくり上げる。
「どう?オンナになった気分は?」
「あ…あ…」
茫然としていて何も答えられそうにない。
「残ってるあの中で一番の親友って誰?」
生まれたばかりの女子高生は右から二番目の男を指さした。
「あっそ、おにいちゃんちょっとこっち来て」
逆らえないため、勝手に“前”にやってくる右から二番目の男。
「折角なんでこの人の唇奪ってくれるかな?」
観客から怒りのどよめきが上がる。
(続く)




