水木粗鋼の場合 03
第五節
原則として「メタモル・ファイト」を掛け持ちすることは出来ない。
初戦で女体化された状態の相手と、その時点で「メタモル・ファイト」で対戦することは出来ない。
どちらかが勝利条件を見たし、元に戻ったならば同意による試合開始が可能だ。
…誰が教えてくれる訳でもないが、降りかかる火の粉は払わなくてはならない。
橋場は独自に研究と思索を続けていた。
第六節
「そりゃあ惜しいことをしましたね」
斎賀がコーヒーのコップを置いた。
「せめてどんな制服だったのかだけでも体験したいと思わなかったんですか?」
「思う訳ねーだろが」
これは橋場。
都内のファーストフード店でコーヒーを飲んでいる学生二人。
「しっかし、確かにこの能力って自分の衣装はしょっちゅう見るけど、相手がどんな能力なのかなんてそれこそ食らってみないと分からんもんなあ…」
「でしょ?理不尽だと思いませんか?」
「別に…そもそもオレはこんな勝負はやりたくないんだよ」
「でも撃退したんでしょ?」
「…まあな」
「実際問題断りにくいんですよ。言ってみれば「メタモル・ファイト」のルールなんてのも紳士協定みたいなものですから」
「…そうなのか?」
「ええ。数々の法則も回数をこなす内に徐々に判明してきたというか」
「そんな馬鹿な」
「ゲームなんてそんなもんですよ。「囲碁」は先手有利だと発覚して、ハンディが歴史的にどんどん進化してますから」
「いや…囲碁とは違うだろ」
「五目並べだってそうです。余りにも先手有利なんで、先手のみの禁じ手が山の様に作られてどうにかゲームになってるわけです。メタモル・ファイトにしたって『こうしたら、こうなる』という事例が今も発見されて、紳士協定で追加されまくっている訳ですよ」
「…嫌な世界だぜ」
「といっても、全世界のメタモル・ファイターの数なんて知れてるでしょうから、中々ルール整備も追いつかないってところでしょうか」
第七節
「にしても、連中はどうやって評判を聞きつけてんだ?」
「あれ?橋場さんはご存じない」
「知るかよ。オレはマニアじゃないんだ」
その時だった。
「あの~…すいません」
薄気味悪い声がした。
「対戦していただけませんか?」
そこには中肉中背というには太く、それでいて顔色の悪い年齢不詳の男がいた。
「…」
渋い顔の橋場。
「対戦…って格闘ゲームとかではないですよね?」
「ええ、例の奴です」
「はっきり言って貰わないと分かり難いんですが」
「メタモル・ファイトです」
頭を抱える橋場。
「すいません?ファイトなら誰でもいいんですか?」
「え…でも」
「一応ボクもそうなんですが」
ニコニコと笑顔で言う斎賀。
「えっ!こんな可愛い人が!?」
物凄く微妙な空気が流れた。
(続く)