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沢尻瑛子の場合 31


第六十五節


「残念だがオレはあんたが思ってる様な男じゃない。こいつらと同類さ」

「そうは見えないけど?」

「試してみるか?子供にゃ酷だと思うが」

「遠慮するわ」

 見よう見まねで、何となく『構え』っぽいものを取る瑛子。こんなことならもっと熱心に格闘技の中継でも見ていれば良かったと思った。

 大男は構えずにスタスタ歩み寄り続ける。

「ちょっと…」

 次の瞬間、薙ぎ払うような横向きのチョップが瑛子の右耳の当たりを襲った。

 不意を衝かれたが、チョップは途中から動きが遅くなり、ギリギリで避けることが出来た。例の能力が再び発動したらしい。

「おっとっと…危ない危ない」

 バックステップする瑛子。やっとこちらのペースだ。

 と思ったが、バックステップで後ろ足が着地するのと同時くらいのペースで大男が飛び掛かってきた。

「っ!!」

 思わずのけぞってしまい、仰向けに見えた天井の光源を塞ぐように大男が覆いかぶさってくる。

 速度は遅く見えるが、動けないのではどうしようもない。

 どうにかステップ着地が間に合い、広い方にもんどりうって逃げた。

 体制を立て直して大男に向き直ると、地を這う様な高さでこちらに迫る。

「きゃああっ!」

 反射的に脚を後方に振り上げ、サッカーボールを蹴る様にして大男の左肩あたりにぶち込んだ。

 鈍い音がして大男の突進が止まる。

 瑛子はもう一度目一杯振りかぶって右足でキックを叩きこむ。


 その場に止まった大男は気力を振り絞ってガードする様に手を上げた。

 その手に向かって叩き込む形となる。

 瑛子の足にかつてないほどの重量感が感じられ、次の瞬間、一気に解放された。


 大男が吹っ飛んでいた。

 どうやら蹴り足を掴もうとしたらしいのだが、余りのキックの威力に腕どころか全身がふっとばされていたのだ。



第六十六節


 ズシン!と重量感のある音が響き、尻もちをついた大男がゆっくりと崩れ落ちていく。

 同時に肩口に激烈な痛みが走った。

「いったああぁ!」

 振り向くと、好青年がニヤニヤしながら箱の様なものをこちらに差し出している。

 同時に凄まじいショックが瑛子の全身を襲った。

 結論から言うと「ワイヤ―射出型スタンガン」だった。

 単に電気ショックを与えるだけのスタンガンだと相手に接触して押し付ける必要があるため、非力な女子供が持っていても使いこなせないどころか、暴漢に奪われて逆利用される危険性がある。

 その点、「ワイヤー射出型スタンガン」は、ボタンを押すことで有線針が対象に向けて飛び、刺さったところで大電流を放って気絶させることが出来る。

 それを撃ってきたのである。


 ここで瑛子の記憶は少し飛ぶ。

 気が付くと好青年に馬乗りになってパンチを叩き込んでいるところだった。


 はあはあと息が荒い。

 激痛の走る右肩からワイヤーを引き抜いて捨てた。


「あ、あはは…あははは…つ、強いな君は…参ったよ」


 ヘラヘラしている。

 どうやら瑛子はスタンガンの電気ショックにも耐えながら好青年に飛びついて馬乗りになるところまでを無意識に行っていたらしい。



(続く)


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