沢尻瑛子の場合 28
第五十九節
「お?自主的に脱ぐ気になったか?」
「…」
瑛子は言葉が出なかった。
格好よくタンカの一つも切れれば絵になるのだが、これは漫画ではない。とにかく怖いのだ。昨日のことがあったので調子に乗ってのこのこ付いてきてしまったことを猛烈に後悔し始めていた。
「みっつ数える内に脱ぎはじめろ。出ないと無理やり脱がす」
「そん…」
「ひとーつ」
ふんぞり返ったまま指を折る好青年。
「どうして!どうしてこんなひどいことすんの!」
「ふたーつ」
「…制服渡せばもうあたしたちに付きまとわないのよね!」
「みーっつ!タイムオーバーだ。無理やり脱がすぞ」
「おい」
好青年の後ろからノッポの大男が好青年に声を掛けた。
「何だよ」
「焦るな。折角だからこの女もう少しいたぶろうぜ」
「いたぶるってどうやって?」
どうやら大男は好青年と対等の立場にあるらしい。
「いきなりやっちまうのもいいが、制服売りさばくよりも本番ビデオじゃねえのか」
事態が瑛子の手の届く範囲で勝手に進行している。
第六十節
「教えて!もうあたしたちには付きまとわないで!」
「…どうかな?とりあえずお前約束果たせよ」
「約束って…」
「三つ数えたんだからさっさと脱げや!」
「お嬢ちゃん」
大男が似合わない言葉遣いで言った。
「悪いがその約束は出来んな。あんたがお仲間の名前を全員吐くまでは」
どうやらこいつらは本当に昨日の騒動が『多勢に無勢』だったと信じているらしい。まあ、このか弱い女子高生が格闘家にも匹敵するケンカ自慢を二人倒したなんて信じられないだろうからある意味無理も無いのだが。
「…仲間なんていないよ」
「…何だと?」
「あたし一人でやったから」
一瞬静まった後げらげらと笑いだす集団。
「マジかよ!」
「受けるー」
態とギャルっぽい口調で言う筋肉ダルマども。
「おい、テメエいい加減にしろよ」
口調が悪いのは好青年の方だった。
(続く)




