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沢尻瑛子の場合 25


第五十三節


 瑛子は考えていた。

 これからどうしたものか…。

 清美は意識が戻ったのか戻らないのか未だに面会謝絶だ。

 あのご両親の様子だと、意識が回復したとしても瑛子に会わせてもらえるとは思えない。

 一応メールもしてみたんだが当然返事は無い。


 昨日のことは確かに記憶にある。

 顔面に迫ってくるパンチや、組み敷かれた恐怖。そして、相手を突き飛ばし、殴り倒せる信じられない感覚。何と言っても目の前で女に変身していく男のパニックぶり。


 瑛子は生まれつきの女だけど、金切声をあげて嫌がる女の服を無理やり破いてみると、なるほど自らの身の上に重ねてしまう嫌悪感もあれば、不思議なことに同時にある種の興奮もあった。

 男女関係なく存在する「加虐の快感」とでも言うべきものなのだろうか。

 なるほどこれでは、嫌がる女を無理やりセックスする男が大勢いるのも理解できる。生粋の女である瑛子ですら多少は理解できるのだ。実際マッチョで女に不自由しないモテ男ともなればそういう「女千人切り」みたいな『趣味』にはまりこむのも当然なのかも知れない。


 とはいえ、やられる方にしてみればたまったものではない。

 今はAVだって何だってあるんだから、嫌がる生身の女じゃなくてそういうので処理してもらえないかな。


「…瑛子ったら!」

 結構強めにドン!と押された。

「…っ!…何よ」

「さっきから呼んでるのに」

 ずっと考え事をしていて気が付かなかったみたいだ。



第五十四節



 目の前には茶髪で露出度の高いチャラ男がいた。

「どうも~。可愛い制服だね?」

「…」

 露骨に汚いものを観る目つきになる瑛子。

「どう?これからお茶しない?」

 恵理が瑛子の手を握ってきた。女子生徒同士ならばこのくらいのスキンシップは普通だ。

「間に合ってるから帰って」

 瑛子が言い放つ。

「まぁまぁそう言わずにぃ!カラオケとかおごっちゃうよ~ん」

 浅黒く日焼けした筋肉質と不自然なほどの白い歯が何とも爽やかだ。爽やかなんだが何故か反吐へどが出そうだった。

「…瑛子…」

 助けを求める様な恵理の表情。

 普段は決してそんなキャラじゃない。クラスの男くらいだったら強気の態度で怒鳴りつけるくらいは当たり前の現代っ子である恵理がここまで本能的な恐怖を感じている。

 チャラ男はどちらかというと小柄寄りの瑛子たちよりも頭一つ大きい。

 少なくとも、さっきのオタクくんたる群尾あたりと戦えば片手でも勝てるだろう。



(続く)


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