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沢尻瑛子の場合 23


第四十九節


「…何?」

 昼休み時間に校舎裏の人気のないところに呼び出された瑛子。

 目の前にはクラスメートの群尾卓也むれお・たくやがいる。

 余り存在を意識したことが無く、一緒に話すタイプでは全く無い。

 特に際立って不潔だったり挙動不審だったりはしないが、帰宅部らしく締まりのない身体つきで、何とも野暮ったい。

 真面目な印象を与えるはずのメガネも単なる不摂生による近眼にしか感じられない…そういうタイプである。

「沢尻…さん」

「…ん?」

 瑛子は面倒くさかった。こんなことやってる場合じゃないのだ。なら何をやってる場合なのかと言われると困るが。

「好きです!付き合って下さい!」

 時が止まった。



第五十節


「…何だって?」

 瑛子は思わず聞き返してしまった。

「好きです!付き合って下さい!」

 律儀にもう一度全文繰り返す群尾。

 思わず後ろを振り返る瑛子。

「…誰を?」

 ボケのつもりはなくこう言った。

「僕が、あなたをです」

「…」

 何というか、青天の霹靂だった。

 余りの突拍子も無い出来事に思考回路が追いついて行かない。

「…はあ」

 気の抜けたリアクションである。

「いいんですか!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 ぶんぶんと首と手を振りまくる。

「…本気マジ?」

「ええ。本気ほんきです」

「何で?」

「何でって…」

 間抜けなことに、ここに至ってやっと事態を理解した。要するに自分は告られているのだ。

「あ、ごめん。無理」



(続く)


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