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沢尻瑛子の場合 18


第三十九節


 つかつかと歩み寄る瑛子。

「…ふん、何だか分からないけど形勢逆転だね。どお?オンナになった気分は?」

 腰に手を当ててふんぞり返る瑛子。さっきまで殴られ、蹴られ馬乗りになられていたのだ。今度はこちらがやり返す番だ。

「これは…お前が…?」

 何度も自分の身体を見下ろしてはこちらを見ることを繰り返す『女子高生』。造形こそ可愛いが、ぎんぎんに目を見開き、顔色が真っ青だ。制服マジックがあるにしてもかなり苦しい。

「とりあえずどうでもいいんだよ!さっきはよくもやりたい放題やってくれたな!」

 お揃いの可愛らしいリボンを潰すように胸倉を掴んで持ち上げようとする瑛子。

「ぎゃっ!」

 何だか柔らかいあちこちをついでに目一杯揉んでしまった気もするが、とにかくその『女子高生』はロクに抵抗出来なかった。

 細マッチョのケンカ自慢から、か弱い乙女になったことで物理的・生物的に弱くなったのか、それとも余りの衝撃に動揺しているのか。

 両方ではあるだろうが、どうやら前者が大きい様だった。

「もう清美に近づくんじゃねえ。あたしらにもだ!分かったな!」

 腕を振りほどこうとじたばたしているが、全くと言っていいほど効果が無い。突如発現した瑛子の馬鹿力の方が遥かに強力なのだ。

 と、瑛子が何かを思いついたらしく、にやりとした。

「…ふん…ここでぶん殴ったり蹴ったりしてもいいんだけどさ。多分、あんたにより『効く』のはこっちの方…だよねっ!」

 次の瞬間、ぶわりと風を巻く音がした。



第四十節


 細マッチョは、突如何も無くて寂しくなってしまっている下腹部に強烈に風が吹き込んでくるのを感じた。

 一瞬遅れて身体が勝手に反応する。

「きゃあああああーっ!」

 舞い上がったスカートは、内側のスリップの白さとふちの刺繍の繊細な柄と共に、思春期の女子特有の瑞々しさに彩られたシルクのパンティを見せつけた。

 次の瞬間には、白魚の様な両手がそれを押さえつけ、ふわりと落下する。

「どお?スカートめくられる気分はどうよ?男としてさ」

 細マッチョだった女子高生は胸倉を掴んで吊り上げられながら耳まで真っ赤になっていた。

「…にしても、こんなところまでよく出来てるわー」

 瑛子は妙なところに感心していた。

 小学校の運動会だの、中学の文化祭だので、「男子の女装」はそこそこ目にしてきて、当然の様にめくれるスカートは全部めくってきた札付きの女子だった瑛子である。

 だが、ほぼ全員がトランクスどころか体育の時間に使う短パンを履いていた。

 一人だけストッキングにブリーフという「本格仕様」の男の子がいたけど、それは例外。

 今時女子ですらここまでのミニスカートだと生パンでは歩かないことも少なくないのに、この男…元・男…は下着まで完全に女物になってやがるのだ。

 何というか、文化祭女装なんて、「見た目」がそれらしく見えるのが第一だから下着なんぞ本当にどうでもいい。大体外から見えない。

 こいつは外見も完全に女子の制服となっていて可愛いのは勿論のこと、スカートをめくらなきゃ見えない下着…パンティまで完全に乙女仕様だ。何だかディープな感じだ。

 …多分、あたしのせいだけども。



(続く)


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