沢尻瑛子の場合 09
第十七節
「おお!あんまり調子に乗るんじゃねえぞビッチが」
口調がモロにチンピラである。
「はぁ?誰がビッチだよこの祖チン野郎が!」
最近読んだ漫画で覚えた罵倒語である。
「お前ちょっとこっち来いや」
「誰が行くかボケが。清美返せよサル!」
「へっ!」
口汚く吐き捨てる細マッチョ。
「その清美がどうなってもいいのかよ?あぁ?」
元々知性がまるで感じられないそのツラが醜く歪んだ。
「あんだとゴルァ!」
物凄い口調だが、別に瑛子は不良でもヤンキーでもない。今時の普通の女子高生である。キレると言葉が乱暴になるだけだ。こんなのと口げんかしなくてはならない同年代の男子高校生が気の毒である。
「みてみろや?ここにお前の大好きな清美ちゃんのすっぽんぽんが映ってんぜ?」
スマホを翳して来る細マッチョ。
「テメエ…」
「大人しく言うことを聞かねえとこれをばら撒くことになんだがいいのか?」
瑛子は言い淀んだ。
「ひゃーははは!何も言い返せねえみてえだな!あー!」
第十八節
「何が望みだよ?金か?」
「お前らに金なんか期待してねえよ」
「…お前…清美の裸で脅迫してあたしらを食おうとしてたな…?」
ぐにゃりと見苦しく笑う細マッチョ。
「ああそうだよ。お前らにはその程度の価値しかねえだろうが!」
「あんだと…」
「おっと動くなよ?今オレの手はボタンに掛かってるぞ?ここを送信しちまえば清美ちゃんの大事なところが全世界にお披露目だ?どうだ?」
怒りの余り、脳内の血管が何本もブチ切れる瑛子だった。
「そうして欲しくないならこっち来いや」
「やだね」
「いいのか?お前の態度によってはこのデータを破棄してやってもいいんだぜ?」
「…本当に?」
「ああ」
その瞬間だった。
ガバリと背後から抱きしめられた。
「ぎゃあああああーっ!」
腕が顎の下に差し入れられ、首が締まる。柔道の裸締め、プロレスでいうスリーパーホールドが決まっている。
「よし!でかしたぞ!やっちまえ!」
背後から仲間の一人が瑛子を羽交い絞めにし、首を絞めに来たのである。
最初から複数人で襲おうとしていたらしかった。
背後の男の手が瑛子の右の胸を鷲掴みにする。
「やめろー!やめ!やめてー!」
高校生にしては発育のいいその乳房を握りしめ、そのまま制服の一部を引きちぎる背後の男。
絹を裂く様な悲鳴が響き渡る。
瑛子は自らの声の鬱陶しさに絶望した。
(続く)




