水木粗鋼の場合 21
第四十五節
「ではまず武林さんと斎賀さんで試合成立してください。ボクがまだ女子高生である以上、皆さんの知識だと、本来なら試合は成立しません。前の試合が終わってない扱いになるはずですから、であと…」
「今度は何だよ?」
少しイラついて武林が言った。
「もしよければ武林さんも斎賀さんの能力を受けて欲しいんです」
「はぁ!?」
「すいませんすいません!でも…」
「やったればいいんじゃねーの?お互いの口頭の宣言で試合を始めたり終わらせたり出来ることが分かったんだし」
「他人事だと思って勝手なこと言いやがって…あんな恥ずかしい恰好するのは俺なんだぞ!」
「すぐに済みますから!」
「…仕方ねえな」
「では、手順を書きますからその通りにお願いします」
斎賀「試合お願いします」
武林「受けた」
水木「はい、試合成立です。ではお互いを変身させてください」
お互いを変身させる。
斎賀「ギブアップします」
武林「解除条件は、般若心経を一回読み上げること」
斎賀「了承しました。ギブアップよろしいですか?」
武林「いや、合意の上の引き分けでいい」
斎賀「えっ!?これはどうなんだ?」
水木「問題ありません。試合が終わればいいです」
斎賀「えーとじゃあ…合意の上の引き分けを」
水木「駄目です!この場合は優生の武林さんから提唱してください」
武林「えーと、解除条件は般若心経を一回読み上げること、その上で合意の上の引き分けを提唱する。受けるか?」
斎賀「受けます」
水木「はい!勝負終了!引き分け成立です!」
次の瞬間、『武林だけ』がぼうん!と元に戻った。
「でしょ?」
紅いリボンもまぶしいブレザー姿の女子高生となっている水木がウィンクした。
第四十六節
「…なるほど、確かに勝負がついたのに戻ってませんね」
自らの「女子高生」と成り果てた身体を見下ろし、のみならず適当にあちこち触って確かめる斎賀。
ちなみに斎賀が武林の能力を食らうのは初めてである。
「でしょでしょ?これで戻るタイミングを自由に選べますよ!」
「…俺とアキラの対戦の順番をこうした理由が分かったぜ。水木よお。お前このまま帰って今夜一晩ブレザーの女子高生を堪能する気だろ?」
「…ばれちゃいましたか」
ペロリと舌を出す。
「モロ分かりだっての。やっぱりセーラーは時代遅れか」
「そこですか橋場さん」
「すいません…天秤に掛けるとやっぱりこっちでした…」
「いや、別にどうでもいいんだけどさ」
「ちなみに能力は失ってませんよね?」
「半永久的に戻れない状態にされちゃうと同時に能力も失われるとか言われてますけど、少なくともボクは何度も何日もこうやって女の子で過ごしてますけど問題なく使えてますよ」
「お前…それじゃ行きずりの痴漢をスク水女子中学生に変えてるってのか?」
「正当防衛ですもん。それに近所でも評判の通り魔だったんでね。問題ないでしょ?」
「まあまあ橋場さん。その辺りは僕らも似たようなもんじゃないですか」
「まあな」
「で、どうします?斎賀さん。このままおうちに帰るんでしょ?女子高生で電車に乗るのは初めてじゃないですか?いいもんですよ~」
「残念ですが遠慮します。ボクは長時間この姿でいたくないんでね」
「え~、折角お膳立て整えてあげたのに~」
「あ、でも感謝しますよ。これは物凄く貴重な情報でした。すぐには思いつきませんが応用法は無限大ってところです。ところで水木さん、勝負したいんですけど」
「残念!拒否します!この変身が解けちゃうんでね!」
(続く)




