水木粗鋼の場合 16
第三十五節
「で、申し訳ないんですけどお二人の能力を教えてください。あ、はしばさんはセーラー服でしたっけ」
「…そうだ」
「膝下ふくらはぎまでの長いスカートに腰まである長い髪…セーラーは冬ですか夏ですか中間ですか?」
「冬ですね。コテコテの」
これは斎賀。
「おお!冬!やっぱり冬ですよね!」
あんまりその会話にはノれない橋場だった。ある意味日本一と言っていいほど女物であるセーラー服が身近な存在ではあるが、別にマニアックな知識がある訳ではない。
「ぶりんさんは?」
「ってオレもやんの?」
「ここまで来たら付き合えよ」
「オレはスクール水着なんぞ着ないぞ!」
「だからその必要はないんですってば。この場合変身するのは水木さんだけですよ」
「…で?ぶりんさんの能力は?」
身を乗り出さんばかりにして訊いてくる。
「ブレザーだよ」
「え?じゃあさいがさんと同じですか?」
「いや、僕とは大分違いますね。僕のはネクタイですけど、武林さんの制服はリボンタイプです。ベストはクリーム色で、スカートはチェック柄のミニプリーツ。要するにある意味最もこってこてで典型的な「今時の女子高生」スタイルですよ」
「ええーっ!ほ、本当ですかあああ~っ!」
元々甲高い声が更に裏返ってえらいことになっている。
…セーラー服のテンションより高いので軽く凹む橋場だった。
第三十六節
「で?どうするんだ?」
「試合を成立させて、ボクをセーラー服にしてください」
「…それで?」
「それだけです。学ラン姿の橋場さんと手を繋いで写真を撮りたいですけど…駄目でしょ」
「そりゃな」
にべもない橋場。
「少しの間、写真タイムをもらいますけどその後はボクが投了するので、「受けた」と言って貰えば試合は終了。橋場さんは苦労なく一勝ゲットです」
「それじゃ今までと同じだろうが」
「まあまあ。問題は次のぶりんさんです」
「は?俺?」
「とりあえずそれまで待ってもらえますか?」
「どれくらい掛かるんだ?」
「そうですねえ…延長料金もあるんで、あと三十分くらいで」
(続く)