水木粗鋼の場合 13
第二十九節
「じゃあ、中々参らない人だったら試合が終わりませんね」
「往生際が悪くて負けを認めない人とかね。その場合は『最後まで』行くしかないでしょう」
「…それって…」
「ええ。性交渉です」
要はセックスってことだな。
「完遂されれば間違いなく精神的には屈服します。まあ、実際はどれほど強情な人でも、完遂する前に精神的に折れてしまうそうですけどね。」
「…?しかしそうなると、女性のメタモルファイターが女性化した男性メタモルファイターに勝とうと思ったら問題があるんじゃないですか?」
「あと、下手だったらどうするんだ?」
「僕も含めて若い女性の前で直接的な表現はどうかと思いますが、まあ下手な場合は参りにくくはあるでしょう。推測ですが。女性であっても同じです。男性器が無いのは不利でしょう」
「まあ、単純に考えればそうなります。女性であることのハンデってところです」
「で?もしかしてそれ以外にも敗北条件があるとでもいうのか?」
「ありまぁす」
可愛い。
「それは何だ?」
「投了です。『ギブアップ』ですね」
しばし沈黙。
「ん?それは『参りました』って言えば試合が終わるってことか?」
「基本的にはそういうことです」
「知らなかった…斎賀、お前知ってたか?」
「僕も知りませんでした」
「ただこれには条件が幾つかあります」
手を挙げる水木。
第三十節
「精神が折れる場合は、言ってみれば自然現象です。余り意識的にコントロールできることではありません。例えて言うなら、ボクシングで休憩もレフェリーストップも無い試合で、「意識が無くなった時」を条件とするようなもの。中々難しいです」
「…っつってもその調子でやってはいたんだが」
「『精神的屈服』は『強制条件』ですので、片方がその状態に至ったならばどちらのプレイヤーの意思にも関係なく強制的に試合は終わります」
「ふむふむ」
「どちらか、或いは両方が性転換させられていたとしても、試合に臨んでメタモル能力で齎された状態に関しては全てリセットが掛かります」
「要するに元に戻ると」
「ええ。より厳密に言うと『強制を維持することが出来なくなった』状態ということです」
「…?良く分からん」
「稀に試合終了と同時に戻らないことがあるんですよ」
「それが噂の奴か…」
ちっちっち、とドヤ顔で目の前で指を振る水木。可愛いがムカつく。
「変身後の固定現象ですね。それとは違って、『戻ろう!』と強く念じれば戻れることが大半です。試合中はお互いを精神力で変身させようとし、させられる側はさせられまいと頑張る訳ですが、試合が終わるとその強制力を掛けられなくなるので念じるだけで簡単に戻れる訳です」
「なるほど」
「つってもこれまで試合終わっても変身したまんまだった奴なんていなかったぞ」
「ですからこれは珍しい現象です。稀にしか起こりません」
氷だけになっていたジュースのコップの中の溶けた氷の周辺の水を飲む水木。
「『投了』の場合は、『精神が折れる』必要はありません。お互いに了承すればそれで試合終了です」
「そっか…無理やりスカートめくったり抱きしめたり、キスしたりする必要が無いと」
「そんなことしてたんですか?きゃーやらしーきゃー」
実際に美少女になってるのにオカマっぽく言う水木。
「まあ、そういうことです。メタモルファイトのジャンキーで何度も対戦している仲だったりすると、大勢が決した時点で投了しますね」
「将棋で言えば相手を詰ますところまではやらないみたいなものですね」
「その通り!」
(続く)